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快適なおうち (小説120枚)

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あらすじ◆「快適なおうちを保ち続けたいの」。消極的なリカコは、結婚二年目の主婦。誰にも邪魔をされない世界で一番快適な場所―おうち―を作り上げ、夫・ユウトの帰りを待ちわびている。し…
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2017年7月の記事一覧

快適なおうち 1

快適なおうち 1

 カツッ、カツッと硬いものが夜気を吸い込んだコンクリートを容赦なく打ちつける。
 その音は敵意に満ちていて、もしそれがパンプスのヒールではなく鋭いアイスピックで、コンクリートが氷塊であったなら、瞬く間に砕け散っていたに違いない。
 マナベミユは自室があるマンションに辿りつく。オートロックのはずなのに、なぜかいつも鍵の掛かっていないガラスの玄関扉を思い切り手前に引っ張って中に入る。マンションの玄関に

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快適なおうち 2  (リカコ  森のなかへ)

快適なおうち 2 (リカコ 森のなかへ)

<リカコ>

リカコは森の中を進んでいたが、脛のあたりが痒くなり、立ち止まって見ると蚊に二、三箇所刺されたあとがあった。やっぱり虫除けもせずに来たのは無謀だった。脛に手を伸ばしたそのとき、鳴り響いていたモーター音が止んだ。瞬時にあたりは静寂に包まれ、鳥のさえずりだけがリカコの耳に響いてくる。リカコは半分屈んだ姿勢のまま、唐突に、今自分は森の中でひとりきりであることを自覚した。もしも今、誰かに襲

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快適なおうち 3  (ユウト  密会)

快適なおうち 3 (ユウト 密会)

第3回<ユウト>

 ユウトが電話を掛けたとき、マナベミユは昼寝をしていたらしかった。いつもとは違う、気怠い甘えた声だった。
「寝てたの?」
「え、あ、はい、ちょっとだけ……」
 マナベミユは照れた声で答えた。ユウトはリカコ以外の女と何気ない電話をしているということに少し昂揚していた。結婚してから、こうして女性と電話をすることは一切なかったので、どこか新鮮な気持ちだった。
「休み中に突然ごめんね。

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快適なおうち  4  (リカコの妄想)

快適なおうち 4 (リカコの妄想)

第4回<リカコ>

 バラ園には、予想どおり、赤、黄、ピンク、オレンジなど様々なバラが咲き乱れていた。
 色だけでなくかたちもそれぞれ違った。毛糸玉のように薄い花びらをぴっちりと巻きつけたものもあれば、華やかに花弁を広げて存在感を示しているものもある。
 花壇の間を、先ほどの婦人たちがゆっくりと歩いている。バラ園の隅にキャンバスを立て、絵筆を握る老人もいた。バラ園では、園の外よりも、とてもゆっくり

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