提言⑬「任意団体」の法人化
自分が「地域づくり」の担当職員だったころの話。
ある全国的な組織の設立総会に行ったことがある。
これは、「小規模多機能自治推進ネットワーク」という組織で、自治会、町内会、区などの基礎的コミュニティの範域より広範囲の概ね小学校区などの範囲における地域共同体が行う地域実情及び地域課題に応じて住民の福祉を増進するための取組を「小規模多機能自治」と位置づけ、その取り組みを支援、管轄する全国の地方公共団体等の関係者によるプラットフォームとして位置づけられるものだった。
我が町では、「小規模多機能自治」を行う団体を「地域コミュニティ会議」と呼んでいて、市内に27の「地域コミュニティ会議」が存在しているが、この組織が行政主体で設立を促された「任意団体」であったため責任の所在があいまいであったし、地域課題解決を行う組織としてこのままの状態で活動していくことがいいのか、他地域の事例も参考にしたいと思っていたこともあり、このネットワークに参加する意向をもっていた。
上司はこの件にほとんど関心を示さなかったことから、自分で起案してトップリーダーまで起案書を持参し説明をして、自治体としてネットワークに参加することになった。
職員の中には「そんなの会議参加してどうするんだ」という冷ややかな目もあったのかもしれない。結局、一人で設立総会に参加したのだが、会場に入って参加者名簿を見た途端、場違いなところに来てしまった・・・と後悔した。
会議の出席者の大半が、地方自治体の首長もしくは幹部クラス。当時係長クラスは数えるほどしかいなかった。
それもそのはず、会議には自民党の最大派閥である当時の細田派の会長だった細田博之現衆議院議長が参加し、おまけに当時の復興大臣だった竹下亘国会議員も顔を見せるなど、会場が永田町に近いこともあり、多くの市町村がある政治的意図をもって作られたネットワークであることを感じていたのであろう。
その政治的意図とは、「小規模多機能自治団体のスーパー法人化」である。
「小規模多機能自治団体」をはじめとする地域団体の多くは、「任意団体」である。
「任意団体」は自由に設立が可能だし、官公庁への届け出もいらない。(収益事業がある場合は部税務署への届け出は必要)
一方で、「任意団体」は「権力能力なき社団」の扱いであり、不動産の取引はできないし、団体名で金融機関等からの融資も受けることもできない。もしもそういった取引をしようと思えば、団体の責任者が個人名で行わなければならない。
また、団体の責任において事故や事件等が起きた場合、善管注意義務違反として団体の長に責任を問われる可能性があるなど、リスクをはらんでいる形態でもある。
全国にある「小規模多機能自治団体」を、あいまいな「任意団体」という組織形態から新たな「地域法人」として法人化する法制度(スーパー法人)の設立を目的として作られたのが小規模多機能自治推進ネットワークだったのだろう(多分)。
何しろ、このネットワークの事務局は、国会議員の先生方の出身県の市町村であり、並み居る首長様達は、ほぼその県を含む地方の方々だったことから政治的意図が透けて見える。
結局、このスーパー法人化は法律改正のハードルが高く断念する形となり、国では内閣府によって地域組織運営の法人化を啓発するにとどまっている現状にある。
実を言うと、このネットワークの設立後2か月で自分は人事異動してしまったため、その後の我が町の関わり方はしらない。
その当時から他地域の事例研究や他地域との交流には関心のない職員がほとんどだったし、後任もその事業を引き継いだのかも不明だったので、結局有耶無耶になってしまったと思う。
久々に、小規模多機能自治推進ネットワークのfacebookを見てみたらまだ活動はしているようだ(ちなみにトップページの写真に自分もいる・・・)
いずれ、今でも法人化の課題というのはそのまま残っている。
「スーパー法人」でなくとも、地域団体のNPO法人化や一般社団法人化ということを検討してみる必要がある。
ちなみに他地域では、地域がまるごとNPO法人化しているところもあるし、管理事業と収益事業を分け、収益事業の部分だけをNPO法人として組織化している事例もある。
我が町の「地域コミュニティ会議」では、団体によっては交付金や管理委託料などによって1,000万円を超える収入を得ている団体もある。
組織のガバナンスとして「法人化」を進めなければならないと思う。
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また、我が町では各小学校区にある「学童保育組織(学童クラブ)」も任意団体としているところが多い。
我が町の学童クラブでは、放課後の居場所として近年利用者も増えている一方で、指導員不足も顕著であり、指導員の待遇改善も含め制度設計を検討していく必要がある。
おそらく目指していく方向性としては、小学校区にある学童保育を束ねる形での法人組織の設立であり、職員の人事異動や待遇改善、責任の所在の明確化など、法人化とともにそのスケールメリットを活かすことができる。
いずれ、任意団体という、責任能力からみてもガバナンスからみても不安定な団体に○千万円もの補助金や交付金を交付し、事業運営を行わせているリスクを回避しなければ、いつ何化問題が起こっても不思議ではない。
実際に、我が町の任意団体では、経理を担当する職員の不正事例も起きている。
何かあってからでは遅すぎる。
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