【近所にも登場「ハッピーキャビネット(コロナ禍助け合い食料ボックス)」】
夕方のウオーキングに出たら、総菜屋向かいの空きスペースに人だかりがしている。
垣間見えるのは、縦長の食料&食器入れみたいなものだ。
冷蔵庫の普及していない時代、タイでは作り置きや食べ残しの食料をこの通気性のある棚に入れて保存していた。
いや、冷蔵庫の普及した今でも、学校帰りで腹を空かせた子供たちが、この棚からおやつなどを取り出して食べる光景はよく見かける。
むろん、私たちが子供だった昭和30年代にも各家庭にあった。
日本語で「猫いらず(これは殺鼠剤か)」だかなんだか、ちと面白い独特の呼び名があった筈だが、思い出せないでいる。
関東では「ハエ入らず」と言ったそうだが、故郷の九州ではどうだったか?
ご記憶のある方は、ぜひご教示願いたい。
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さて、近づいてよく見るとガラス越しに水入りペットボトルやインスタントラーメンの袋が見える。
はは〜ん、これがチェンマイの地元ニュースなどで話題になっている「コロナ禍助け合いボックス」か。
張り紙のタイ語を訳すと「ハッピーキャビネット」という意味になる。
どれどれと取っ手を引いてみると、おや、熟れた黄マンゴーもあるぞ。
しめしめ、ちょうどウチでは切れていたところだ。
なんて喜んで、盗んではいけない。
これは、コロナ禍で仕事を失った人たちに手を差し伸べるいわば「助け合い運動」なのだ。
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仕組みは簡単で、余裕のある人は暑さに傷みにくい乾燥米、乾麺などの食料や飲料をこの箱の中に入れる。
市街地では、冷蔵庫を置いてあるところもあるそうだ。
そうして、困っている人は必要最小限のものを頂いて帰る。
別に、偉くも、恥ずかしくも、なんともない。
要は、お互いさまなのだ。
今回助けられた人は、あとでまた少し余裕ができたらば、今度は別の困っている人を助ければいいだけの話なのである。
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多くの国民の間で深く信仰されている上座部仏教の影響だろうか。
タイの人々は特に豊かでなくとも、こういうことを自然発生的に始めてしまい、それがあっという間に全国に広がってゆくから、いつも感心させられる。
そう言えば、東日本大震災や熊本大地震直後のタイにおける思いやりに満ちた支援活動は、実に素早く立ち上がり、めざましい勢いで広がっていったものだ。
このことを、果たしてどれだけの日本人が知っているものか。
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さて、ウオーキングの途中なので何も入れる物がない。
あ、そうだ、家には非常事態宣言が出る前に少しだけ買い溜めておいたカップ麺が残っていたなあ。
そう思いついて一度アパートに戻り、それらをビニール袋に詰めてボックスの前に戻った。
初めての体験なので、なんだか胸がドキドキする。
誰かがこれを食べて、少しでも喜んでくれればいいなあ。
健康にはあんまり良くはないみたいだけど、ごめんね。
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そんなことを思っているうちに、今度は卵のパッケージを手にした母娘連れがやって来た。
幼い娘がさげたビニール袋にもいろんなお菓子が詰まっていて、二人はとても楽しそうだ。
ああ、いいなあ。
こうして、子供たちも自然に慈悲の心を学んでゆくのだなあ。
私は、タイがますます好きになった。