なにか、ひとつ



わたしが自分から好きになった人は
なにかひとつを
熱心に追いかける人だった

なにかひとつは
スポーツでも、勉強でも
遊ぶことでも、弾くことでも
なんでもよくて

真っ直ぐに、真剣に
キラキラとした眼差しで
遊ぶように、楽しげに、大切に
それと向き合う人だった


いつも周りには誰かがいた
いつも輪の中心にいた
あたたかい気持ちになるから
その姿を見てるのが好きだった

分け隔てなく優しくて
気にかけてくれて
笑わせてくれて
穏やかな空気が心地よくて
だから好きなんだよなって
何度でも思わせてくれた


わたしが自分から好きになった人に
触れることは結局叶わなくて
涙が溢れてばかりだったけど
それでも、それでも
好きになれてよかったと思う


すっかり大人になった今でも
誰かを想う胸の痛みが、
照りつける太陽の熱気が、
一番星が瞬く頃頬を撫でた風が、
あの頃へと連れ出してくれる

名の付く関係にはならなかったけど
何も形には残っていないけど
わたしの心に、たしかに在る


ひとつしかなくてもそれでいい
ひとつだけあればそれでいい
そのたったひとつから目を逸らさずに
向き合い続けることが愛なんだよ、と
教えてくれた忘れられない人

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