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”喫茶ロジェ”
東京に住んでいる時は西東京に住んでいた。
職場の友人や先輩が綾瀬や北千住に住んでおり、それに少しでも抗いたかったからかもしれない。
現在は東京には住んでいないが錦糸町に行く機会があった。 錦糸町はフジロックに行くための集合場所でしか使ったことなかった。
前回も朝早く到着したからだろうか。
平日はこれから出勤するサラリーマンでいっぱいだった。
サラリーマンとは逆方向に向かい、ある喫茶店に入った。東京でも煙草が吸える店は数少ない。
一服のつもりで偶然入った喫茶店。
店内には誰もいなくてテレビの音だけが響いている。 どこか懐かしさを覚えながら一杯のアイスコーヒーとモーニングセットを頼んだ。
1 , 2 , 3本目の煙草。
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その間にバタートーストとヨーグルト、ゆで玉子が届いた。 煙草一本を味わう間もなく手を伸ばす。 バタートーストは薄切り2枚。
実家では食パンは薄切り6枚入りをよく購入していたことを思い出した。
それはトーストを食べただけで思い出したのではない。 実家の木造の家と濃い木造の内装がどことなく似ていたからだ。
偶然立ち寄った喫茶店で実家を思い出すことに驚きを隠せない。
玉子は頭ではなくお尻の方から食べる。
幼い頃からの癖を久しぶりにやってみる。
黄身より白身の方が好きだから楽しみをとっておくのだ。
そんな過去の記憶を思い出しながら店内を出るとスカイツリーが見えて東京にいると再度実感した。
偶然立ち寄ったモーニング。
喫茶店を出て、見えるスカイツリー。
東京で住んでいたあの部屋から小さく見えたスカイツリーも、錦糸町からはこんなに大きく見えるのだ。
東京に住んでいないからこそ、こんなに実家と東京を思い出す店を探りたくなった。
そのきっかけとなったのがこの錦糸町の喫茶店だった。
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昔の記憶を思い出しながらさっきよりも人通りが少なくなった駅に戻る。
電車の中でふと、あの喫茶店のメニューに書いてあった
「特製ナポリタン(粉チーズありません)」
という言葉を思い出してクスッと笑った。
(文 miski nakamura)