大滝詠一「ロックン・ロール・マーチ」と葬送行進1/音楽
「大滝詠一/ロックンロールマーチ」ミュージックビデオについて。MVがなかった70年代の音楽に映像をつける企画の番組「うたテクネ」のために制作したもの。(NHK Eテレ2019年1月放映)
1は、この曲に引用されている音楽の話。2が映像化について。
選曲
選曲時に色々聴いた際、あくまでポップスは「歌詞とメロディ」が主体だと改めて気づかされた。情緒を排し「リズムとサウンド」をメインにした曲を扱いたいと、行き着いたのが今回の「ロックン・ロール・マーチ」だった。
大滝詠一の作風2種
大瀧詠一は大別して2種の作風を持つ。ひとつは81年のアルバム「ロングバケーション」を代表とした「メロディ路線」。もうひとつは1stソロ「びんぼう」など言葉遊びとリズムを主体にした「ノベルティ路線」。「ロックンロールマーチ」は後者をメインに構成された2ndソロアルバム「ナイアガラ・ムーン」に収録されている。
セカンドラインのリズムと明るい葬送
この曲に使われているリズムは歌詞にも登場する「セカンドライン」。以下、大瀧詠一(多羅尾伴内)によるライナーノーツより抜粋。
“ニューオリンズ・サウンドの中核をなす「セカンド・ライン・ドラミング」にはマーチの影響が多分にあります。セカンド・ラインとは葬式の帰り道、ドンチャン騒ぎをしてもどることを言うのだそうで、行進するところからマーチに関係が深いことも理解できます。(中略)イントロ等で聴かれるセカンド・ライン・ドラミングは、林立夫のオリジナルです。”
セカンドラインが生まれた「ジャズ・フューネラル」と呼ばれる葬儀では「墓地までのパレードでは重々しい葬送歌を、その帰路では賑やかな曲を演奏する」そうで、その演奏の明るさには「魂が解放されて天国へ行くことを祝う」という意味があるとのこと。
葬儀に際し明るく弔う習慣は、アフリカ由来のよう。(ニューオリンズはアメリカ南部。同じく死を寿ぐメキシコの「死者の祭」とも文化的な繋がりがあるのかもしれない。)
現在でも、とりわけ現地のミュージシャンが亡くなった際に行われている。(追記2019:「ナイアガラムーン」に大きな影響を与えたDr.Johnも亡くなってしまいこの形式の葬儀が行われた。リンクは前半のしめやかな演奏)
こちらはバーナード・パーディのセカンドラインドラミング。
こうしたニューオリンズのリズムは「ナイアガラ・ムーン」だけでなく同時代の細野晴臣「泰安洋行(1976)」や「久保田麻琴と夕焼け楽団」への影響も見られる。
ロックンロールについて
はっぴいえんどや大滝詠一は「アルバムにDedication Listを挙げる」ことを行うが、この曲はHuey SmithとBill Haleyというロックンロールの代表者が掲載されている。曲中のロックンロール部分には二人からの引用があるかは不明。はっぴいえんど以前から大滝氏は「変な動きでプレスリーのマネをしながら歌う人」という証言がある。
行進/お祭りに関連する歌詞
「足並み揃えて歩け」
大滝氏の愛したプレスリーの出演する映画主題歌「G.I.ブルース(1960)」はロック+マーチで、この日本語訳バージョンを坂本九が歌っている。この歌詞から引用しているらしき大滝発言がある。
「いまじゃただ足並み揃えて鉄砲かついで歩くだけさ」
すでにロックンロールと行進は結びついていた、ともいえる。これをカバーした坂本九は’41年生まれで大滝氏より7つ上、よりプレスリーの影響を直接受けた世代と思われる。
「景気をつけろ 塩まいておくれ」
「雨が降ろが風吹こうが」
1952年「お祭りマンボ」からの引用。
雨が降ろうがヤリが降ろうが
朝から晩までおみこしかついで
ワッショイワッショイ
作曲者の原六朗は明るい曲調を好み、演歌の依頼を仮病をつかってまで断ったそう。その気質や曲調は、クレージーキャッツなど洋楽+和のコミカルさを好んだ大滝氏も親近感をもったのかも。
下の世代への影響
「七拍酒/サケロックオールスターズ」
曲の間奏でイントロのドラムパターンを引用。(2009年ライブ)
「ハッシャバイ/GUIRO」
名古屋のバンドGUIROの「ハッシャバイ」は前述の「ナイアガラムーン」「泰安洋行」など和洋折衷ニューオリンズに加えてフォスター・エリントンなどアメリカ音楽を飲み込んだような面白い曲で、冒頭「旅ゆけばのぞむ遥かなりスワニー」からはじまる歌詞を含めてアメリカ南部へ向かう行進、道行きを感じさせる。「ゆくははるかニューオリンズ」に通じるのでは。
「ロックンロールマーチ/KEEPON」
2018年のカバー集「GO!GO!ARAGAIN」に収録されている15才のミュージシャンKEEPONによるアレンジは「君は天然色」など多くの曲を1曲の中に引用したりDedication Listをのせるなど「ナイアガラ流」を継承していた。
プレイリスト
Apple Musicに以上に挙げた参考曲などをまとめたプレイリスト「ゆくははるかニューオリンズ」をつくってみました。2へ続きます。