「パッヘルベルのカノン」の構造
NHK Eテレの番組「名曲アルバム+(プラス)」のために制作した「パッヘルベルのカノン」の解説です。(2018年Blogより転載・修正)
カノンについて
カノンとは
“複数の声部が同じ旋律を異なる時点から
それぞれ開始して演奏する様式の曲”
(wikipediaより)
ですが、簡単に言うと、同じメロディーが少しずつずれて重なっていく音楽のこと。わかりやすい例としては「かえるのがっしょう」などの輪唱もカノンです。
カノンのなかでも『パッヘルベルのカノン』は、3つの声部が全く同じ旋律を追唱する最もわかりやすいカノンと言えます。
映像化にあたって
以下のような3つのルールに基づいて作っています。
1
2小節ずつ遅れて3つのバイオリンが同じ旋律をたどる「カノン」を、3つの立方体の動きによって表現する。
2
この曲は4小節を1単位として音形(音の高さや長さ)が変化する。この4小節を「1ステージ」と捉える。
3
冒頭2小節の通奏低音(伴奏)+「4小節×10ステージ」の合計42小節とする。(※実際は57小節あるが5分番組にあわせて後半をカット)
各ステージの特徴
以下は10種のステージの特徴です。
「音の長さ/音の高さを表したMIDI譜」と「各ステージ画像」の比較です。パッヘルベルが明確な意図を持って「音のかたち」を変えていることがわかります。
(1)四分音符:下降する音形を階段として
(2)八分音符:(1)の半分の長さ、2倍の速さで上下
(3)十六分音符:(1)の四分の一の長さ、4倍の速さ
(4)ロングトーン:氷の上をすべる。音が途切れる箇所はジャンプ
(5)最も有名なフレーズ:音の動きが最も多い箇所
(6)間断:音符と休符の繰り返し/前後は交互に発音
(7)セパレート:上下に分かれるフレーズ/2ルートを交互に渡る
(8)繰り返し/同じ音が続く/上下動の少ない梯子状の道
(9)セパレート2:(7)に似た音形/二つに分かれ滑るように進む
(10) ロングトーン2:(4)に似た長い音形/ウォータースライダー
録音とミックスについて
3つのまったく同一の旋律、ということを認識しやすくするために録音した1つの演奏をコピー&ペーストし、音の位置を右、中央、左に完全に分ける、という通常とらない手法でミキシングしていただきました。「カノン原理主義MIX」といえます。
先行事例について
カノンの視覚化はノーマン・マクラレンの「カノン」(1964年)がマスターピースとして存在します。
ピタゴラスイッチ「アルゴリズム体操」もこの作品の影響下にあります。今回、立方体を使っているのは以下リンク(39秒から)部分のオマージュです。
最後に
この曲は自分にとって卒業式や結婚式でかかる「何となく知っている名曲」でした。このような明快な仕組みをもっていることを知り、驚きながら制作しました。依頼してくれたスタッフに感謝したいと思います。
最初のスケッチ
名曲アルバム+(プラス)
初回放送2018年3月31日
作曲
ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)
「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」より「カノン」(独: Kanon und Gigue in D-Dur für drei Violinen und Basso Continuo)
演奏
バイオリン:伊藤万桜
チェンバロ:鎌田茉帆