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ポケモンの広さを感じる「ポケモン×工芸展」

滋賀県の佐川美術館で開催中の
ポケモン×工芸展」へ行ってきた。
2023春に、石川県の国立工芸館でも
開催されていたけれど、遠いので断念した展覧会でした。
なので今回とてもワクワク。

後から知ったのですが、
アメリカロサンゼルスでも開催済みだそう。
(Instagramで調べると、ロサンゼルスの展覧会にて、YOSHIKIが鑑賞している写真が出てきます。)

滋賀県守山市なら、岐阜から車で2時間弱。
建築的にも魅力的な、佐川美術館で開催中です。

入場すると、まず、広い水庭が広がる。
水庭に浮かぶような建物には、整列した柱。
しん、と佇む美しい美術館でした。
水庭が広く、時間によって表情も変わりそう。

佐川美術館

私は祝日の13時頃入場したけれど、
15時頃から家族連れが増えた印象。
ゆっくり鑑賞したい人は午前が空いているかも。

まずは常設展示の日本画家・平山郁夫の仏画やシルクロードの絵を鑑賞し、いざ目的の工芸展へ!

オール写真OKの展示なので、
写真付きでゆるりと振り返ります。

入り口

ポケモンと工芸の真剣勝負
ポケモンと工芸、正面切って出会わせたらどんな化学反応が起きるだろう。
この問いに人間国宝から若手まで20名のアーティストが本気で挑んでくれました。

ポケモン×工芸展HP

展示は3つに分かれていました。
まずはポケモンの「すがた」から。

すがた

お出迎えしてくれるのはフシギバナ
この迫力。

フシギバナ(今井完眞)

肌のざらっとしたモンスター感がたまらない。
森に潜みそうな姿かたち。
見据える目、そして犬歯。
めちゃくちゃ気が荒そうなフシギバナ

ここからアーボッククラブなどのポケモンが並んでいるが、どれも獰猛そう。まじモンスター。
リアルにおったらこんな感じなんだろう、という迫力……。

ゲームやアニメではザコ扱いされがちな
コイキングも『生物』な表情をしていました。
舌の質感まで、ぬめっとしていそうな嫌悪感を抱かせてくるような強さがあった。

と、初っ端から衝撃を受ける。

(作品リストは佐川美術館のHPで確認できるので、ぜひ)

ポケモンスナップのような
カワイイ姿に会えるのではない。
名探偵ピカチュウ実写版のような
モフモフリアルでもない。

それに、ピカチュウイーブイなどの
カワイイポケモンからのスタートでもない。
ゲームで登場するような愛らしい
最初の3匹」スタートでもない。

怖い顔のフシギバナからである。

この展示会、本当に真剣勝負なのです。

イーブイ・サンダース・ブースター(吉田泰一郎)

真正面から見ると、食われそう。
サンダースは静々と獲物に忍び寄っていそうな、ブースターは今にも飛びかかりそうな
動きの手足。
迫力ある口と瞳にも注目です。
そして、美しい毛並み。
写真にはいないけど、
手前側に人魚ポーズなシャワーズもいます。

展示の中で、最も人が集まっていたのがこの壺。
ツボツボがモチーフというわけでもなく、
注視してみると……

森羅万象ポケモン壺(葉山有樹)

ポケモンが、いる!!!!

なんと500種類のポケモンが
潜んでいるそうです。
みんな自分の好きなポケモンを見つけたくて、
上から下から必死な様子でした。
私が最も愛してやまないメレシーは、
いるのか分かりませんでした。

他にも、木工のホウオウの繊細さに圧倒されたり、金工のトランセルから孵化するバタフリーのリアルさにビビります……
アリアドスは久しぶりに見ました。
ご無沙汰しているポケモンたちにも
スポットライトが当てられていて、
嬉しい気持ち。

くらし

暮らしの工芸品に紛れるポケモンたち。

まず飛び出るのは、ほのおポケモン!
焼き物と切り離せない「炎」から、
ほのおポケモンをテーマに信楽壺を
作成されたそうです。

確かに!
野生のほのおポケモンは、
焼成している窯に寄ってきそう!!!
と、ものすごく共感&納得したテーマでした。

入り口にも映っていたリザードンの信楽壺も
このゾーンに展示されています。
実物はなかなか大きなサイズで、
炎を吐く姿の迫力がすごい。
お茶目リザードンだったら、
窯に潜んでいたずらしそう。

ロコンもキュートな壺姿へ。
どんな状況で窯に入り込んだんだろう、とか、
想像力が掻き立てられる作品たちでした。

ロコン/信楽壺(桝本佳子)

陶器のポケモンもお美しい。
特に、ヌメラの壺やマホミルの壺は、
質感の違いに感動。
ぬめぬめした感じやホイップの柔らかな雰囲気が、硬い壺で表現される技術……
工芸ってすごいんだなあ、と改めて。

そして、第八世代(ポケットモンスター ソード/シールド)の「最初の3匹」であるヒバニーメッソンサルノリの陶芸には、それぞれのタイプに合うモチーフが、文様として描かれている。
ヒバニーなら炎の中、メッソンなら水の中、サルノリなら草原の中に、野生のポケモンとして紛れ込んでいそうな迫力を感じます。

火炎文ヒバニー(植葉香澄)

他にも着物の絵柄となったポケモンなどに、ワクワクしちゃいました。
ガラルマッギョなんて、ゲーム内での特性『ぎたい(擬態)』にぴったり。
絵柄に紛れ込んでいて興奮してしまいました。
他の工芸品はモチーフとなったポケモンがわかりやすいけれど、ガラルマッギョを知らない人にはほぼ説明不可能な唯一の作品でした。そういうわかる人にはわかる作品があるのも、オタク心をくすぐるところ。

ものがたり

「すがた」ではポケモンそのものの形を工芸品として、「くらし」では生活に馴染むポケモンたちの工芸品、という印象でした。
最後の「ものがたり」では、ポケモンという世界を捉え直されているような、自分の解釈を上書きしていくような、工芸品よりアート!って感じでした。

まず、黄色の華やかな道が現れる。
美しい。
遠目に見ても、繊細な刺繍が施されていることがわかる。

ピカチュウの森(須藤玲子)

近づいてよく見ると……
ピカチュウが!!!

よく見るとピカチュウ!

繊細なニコニコしたピカチュウで溢れている、明るい森です。
写真撮影スポットとしても機能していました。

アニメの「ピカチュウのもり」から着想を得ているそうです。

ゲームでピカチュウが出てくる森といえば『トキワの森』ではないでしょうか。
カントー地方(ポケットモンスター赤緑青など)の『トキワの森』で、彷徨いながらピカチュウを探していた頃を思い出します。
野生のピカチュウは低確率のため、ほとんど出ないし、迷路上になっているので、焦りながら探していた若かりし頃。
結構怖いBGMだった気がします。

明るいピカチュウ溢れる森のおかげで、
鬱蒼とした森の記憶を上書きできたような気分。

プレイヤーそれぞれの「ものがたり」を想起させてくれます。

このピカチュウのレースは佐川美術館内のミュージアムショップでも購入できます。
ただ、ピアスなど用途が限られそうなレースのみの販売でした。
ぜひ「しおりぼん」的なグッズ化をしてほしい。欲しいので。

一見しても、何がモチーフなのかわからない作品もあります。
ピカチュウの森」を過ぎると、艶やかで真っ黒な物体が立ちはだかる。
高さが2m越え。
作品名は「無題」。

解説込みで、なるほどと唸らせる、強い作品でした。
表面がツルッとした作品なので、写真にがっつり私が写り込んでいました。
なので写真は載せませんが……記憶に残るインパクトある作品です。
公式HPには写真が載っています。

可変金物で作られたココガラは、アーマーガアに進化します。
進化の様子が映像で展示されていますが、どういうこっちゃ!
でもワクワクしちゃいます。

そして、私が最も衝撃を受けたのが、この作品。

未知文黒御影茶器(池田晃将)

よく見ると、アンノーン文字が見受けられます。
しかも、サイズがとても小さいの。
高さ10cmに満たない長方体に、繊細な描画。
極小のアンノーン文字がギュギュッと並んでいる。
古代遺跡から発掘されたであろう、角が欠けたりしているのに、近未来な雰囲気。たまらん。

これは螺鈿細工と呼ばれる伝統的な技法だそう。
レーザーで切り出す貝殻。現代だからこその技術による螺鈿が繊細で美しい。

テーマはポケモンにおける「情報」。
他の作品は、ゲームにて捕まえたポケモンを預けておく『ボックス』や、『いでんしポケモン』とされるミュウツーなど。
今ではゲーム機同士の通信が簡単ですが、最初は通信ケーブルでなんとかポケモン交換をしていたことなど思い出しました。

自分用のお土産として、作品のポストカードも購入しました。

ポストカード

この作品から螺鈿細工に興味を持ち、ちょこちょこ調べています。
いつか家に飾ってみたい、という夢もできました。


「工芸」とは、日用品において技巧や意匠によって美的な効果を備えたものを指すそうです。そのため、実用性が重視されるそう。今回の展示でも茶器や着物などが目立ち増した。
なので、彫刻や絵画などの美術品とは目的が異なるらしい。

などの説明をされても「へ〜」で終わってしまうが、実物を鑑賞することで「なんかすごい」を味わえる。

特に、作家性が尊重されていて、ポケモンから自由に作られていることが面白い。
作品と解説から、作者のポケモンの解釈を感じ取ることができる。
対話しているような感覚になる。

他の美術館では解説を読んでも「ふうん」で終わってしまうことが、ポケモンという共通言語があることで「なるほど」と理解になる。

工芸家とポケモンの真剣勝負に刺激を受けました。

そして、ポケモンという題材の解釈の広さ。
ポケモンそれぞれの姿そのものから、ポケモンとの窯のある生活や着るもの・日用品、ポケモンの「わざ」やゲームのものがたり、情報や進化まで。
ポケモンの外側から、内側までじっくり解釈されていて、全部に見応えがある。

ポケモンきっかけに「伝統」に触れ、刺激が受けられました。
写真だけでは伝わらない、迫力ある工芸品。
「楽しい!」とはしゃいでしまう展示会でした。


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