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【美術・アート系のブックリスト】 圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』

広島市立大学の油絵専攻の学生を対象に、講義「絵画論」を依頼されました。そこで「絵画の意味論」と題して、絵画は描かれたイメージ以上の存在であり、さまざまな意味の担い手であるという内容を話すこととしました。

その中で、西洋ではカトリックとプロテスタント、東洋では儒教と道教の影響がそれぞれの時代の美術作品の前提になっていることを話しました。ユダヤ教も同様で、特に現代美術の世界では大きな意味をもっています。

講義では深く踏みいったことは話せなかったのですが、ユダヤ人が美術とどう向き合ってきたかという問題を、正面から取り上げたのが本書でした。

偶像崇拝を禁止した教義と絵画という再現芸術をユダヤ人画家はどう折り合いをつけたのか、その作品にユダヤ教やユダヤ的な暗示はどう現れているかなどを、著名な画家を取り上げて多角的に吟味、追究しています。

ユダヤ人といっても、ユダヤ人であることを隠して宮廷画家にまで上り詰めたベラスケスもいれば、各国の文化に溶け込む「同化ユダヤ人」として生きたピサロ、ロスコのようにホロコーストから逃れアメリカに移住してきた家族の一員として育ったもの、ニューマンのようにニューヨークで生まれ育ちユダヤ文化は後から学んだ子息もいます。そうした彼らの生涯と芸術を新書とは思えない丹念さで紐解いていて、大変勉強になりました。

日本人にとって馴染みのないテーマを、なぜ筆者がここまで詳細に調べて研究するようになったかを記した「結」の章は、人文系の研究とは何かを考えるとてもいい文でした。

新初版、348ページ、光文社、1298円

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【 序 】緋の十字
【第1章】ユダヤ人芸術家の誕生
【第2章】パリ――異邦人たちと芸術の都
【第3章】ウィーン――ユダヤ系パトロンたちの「陽気な黙示録」
【第4章】抵抗、亡命、芸術・文化の大移動
【第5章】ニューヨーク――移民たちの静かな戦場
【 結 】魂のなかに生きている国
あとがき

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