上野 達弘・前田哲男著『著作物の類似性判断: ビジュアルアート編』勁草書房
最近アートにまつわる法律の本も増えてきました。
これは著作権侵害をめぐる紛争でもっとも多い類似性の案件、つまり「盗作」「剽窃」「パクリ」の問題を、法学者と現場の弁護士が研究した本格的な研究書です。
何をもって似ているというのかの法的な考え方がよく分かります。
例えば、「魔法使いの少年が登場するファンタジー小説」という抽象的なアイデアだけでは、それが共通するからといって著作権侵害の議論にはなりません。それが「ハリーポッター」という表現になって初めて、著作権が発生し他の作品と類似性が議論されることになります。もしアイデアだけでいいのなら、今後、魔法使いの少年が登場する物語はすべてハリー・ポッターの盗作として訴えられてしまいます。そうした類似性の限界も含めて、法律は解釈され運用されなければなりません。
そうした理論を抑えた上で、第2編では実際に起こった事件を取り上げています。イラストでは「タウンページ・キャラクター事件」「けろけろけろっぴ事件」「サザエさんバス事件」「ライダーマン事件」など、美術では舞台装置が類似した「劇団SCOT事件」、現代アートの「金魚電話ボックス事件」、ボナールやブラマンクによく似た「エルミア・ド・ホーリィ事件」など、さらに書やフォントの類似問題や広告や作品の写真が類似する問題など、多くの案件を裁判所の判断とその根拠を含めて詳細にレポートしています。
また、著者の二人が一つ一つの事例について、何が問題なのか、判断基準が案件ごとに違っている場合はなぜそう判断されたのかなど、疑問を呈しながら対話形式で議論を進めていきます。しかも、決して難解な用語で読者を置いてけぼりにすることなく、創作者の立場や発想を理解した上で、真摯に考えています。
単に部分的に似ているからと「パクリ認定」するのではない、根拠を積み上げる考え方の勉強になりました。「他に類例を見ない」一冊です。
島田真琴『アート・ロー入門』(慶應義塾大学出版会)と併読するといいと思います。
A5・312ページ
定価 3,520円(税込)