【美術ブックリスト】藤木晶子『竹内栖鳳 水墨風景画にみる画境』
東の大観、西の栖鳳と呼ばれた近代日本画壇の巨匠・竹内栖鳳(一八六四~一九四二)。これまで竹内の評価と研究は前半生に集中していたという。本書は、後半生に進展を見せた水墨風景画について論じる。水墨の技法、題材、取材、表現、当時の画壇の動向など、多角的な観点から分析し、栖鳳晩年の水墨風景画を近代日本美術史に位置付ける。ここまでが概要。
ここからが感想。
非常に綿密な研究書というのが率直な感想。特に水墨風景画の一つの典型として茨城県の水郷潮来に取材した作品を取り上げた第三章が出色。というのも、その取材の実情を考察するために、栖鳳が残した写生帖はもちろん、栖鳳が書いた滞在日記、栖鳳を案内した人物が残した文献、さらに当時の潮来の水郷風景の写真を資料として掲載して検討しているから。写生の実際を作家側、当時を知る第三者、描かれた風景という三つの立場から文字通り多角的に明らかにしている。作品と証言から構成するこれまでの美術史的な叙述にとどまらず、社会史的に跡付けている点は特筆に値する。
382ページ A5判 7150円 思文閣出版
第一章 栖鳳晩年の水墨風景画の全貌
溌墨・破墨の画法と栖鳳作品
大正末期頃~昭和七年頃
昭和八年頃~昭和九年頃
昭和一〇年頃~昭和一六年
水墨風景画制作の変遷
第二章 「淡交会展」における挑戦
淡交会の特徴と意義
第三回淡交会展
第七回淡交会展
淡交会における出品画家の動向
第三章 潮来風景の写生取材の実態
写生帖の素描分析
藤岡鑛二郎の著述
竹内栖鳳の著述
写生取材から絵画化への推移
第四章 中国と潮来の風景表現の連繋
中国訪問と同地の風景画
中国風景画に辿る表現の契機
潮来風景画における表現の変遷
水墨風景画に至る絵画創作の展開
第五章 「栖鳳紙」開発と作画意図
日本画の基底材に関する動向
栖鳳紙の開発着手から完成まで
栖鳳紙に対する試験分析
紙本と絹本を巡る栖鳳の思索
第六章 近代水墨画と栖鳳の画境
近代の水墨表現の推移
東京画壇の水墨画
京都画壇の水墨画
南画系の水墨画
洋画出身者の水墨画
栖鳳の水墨画の位置付け