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喫茶店から見える風景|ショートショート

 ある昼間のこと。

 営業回りで立ち寄った取引先の近くには喫茶店があった。内装も外装も茶系の装飾で統一され、照明も落ち着いた暖かい色調だった。店内では蝶ネクタイをした姿勢の良い紳士が働いていた。外は小降りの秋雨で肌寒かった。あまり熱心に仕事をするような日でもなかったので、少しばかり温まりにいくことにした。ゆっくりすれば何かいい口実も思いつくはずだ。

 ビニール張りのテラス席に座り、ブレンドコーヒーを注文した。店内には数人の男性客がいたが、テラス席は自分一人だった。タバコに火を点けると

「ブレンドコーヒーをお持ちしました」という低い声が聞こえた。
 
 余計なことを話しかけたりはしないのだが、頼まれたものを運ぶという所作の中に不思議と誠実さが込められていることが分かった。

 街行く人々を眺め、午後のひとときを満喫した。
 
 自分と同じように仕事に励んでいるサラリーマン。長い間この近くに住んでいるであろう杖をついた老人。落ち着かない様子で辺りに目をやり、何気ない風景にカメラを向ける欧米人たちの集団。皆が傘を差し、陰鬱な空気が漂う街の中を彷徨っていた。

 そんな風景の中に、一人ずつ傘を差した若い男女が一定の距離を取って歩いているのが見えた。大学生だろうか。
 
 男の方は上下グレーのセットアップに、妙に艶のある革靴を履いていた。どこか浮き足立っていた。
 
 女の方は白が基調の花柄のワンピースに、ベージュのコートを羽織っていた。先を歩く男の背中をじっと見つめていた。

 だが、どことなくお互いがよそよそしく見えた。

 二人はどこか別の店に向かっていたが、しばらくしてから戻ってきた。
 
 「雨の日に無駄に歩かせてしまってごめんなさい」

 傘をたたみながら男はそう言った。
 
 彼らは私の隣に空いていたもう一つのテラス席を選んだ。不自然に思われぬよう注意しながら、さりげなく二人の様子を覗き見た。私はすぐにブレンドコーヒーのおかわりをしたが、彼らはなかなか注文が決められずにいた。
 
 言葉の断片を聞き取り、どんな関係性なのかを知ろうと試みた。押しつぶされた紙巻きタバコの上に灰を落しながら考え事でもしているような振りをした。


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