団長めし#3 鶏そば カヲル
塩ラーメンというやつが、自分はどうにも苦手だった。
まだ小学校の低学年かそのくらいだった頃、実家の近くにあった居酒屋かラーメン屋かの中間のような店に両親と行き、そこで食べた塩ラーメンが……なんというか、ただの塩水のような、そんな味がしたのである。
最悪なことに、自分がその時頼んだのは「塩バターラーメン」だった。温めた塩水に、バターが溶けているのである。その味を想像できるであろうか。
まぁ、そのような経験があってから、自分は選択肢が示された時であっても絶対に塩ラーメンだけは頼まなくなったのである。
これが本物の味
その思い出を塗り替えてくれたのが、今回紹介する「鶏そば カヲル」であった。
オープンからもう数年は経っているが、今も昼時には行列のできる人気店である。自分は仕事の帰り道にあったこともあり、開店当初からお世話になっている。
主なラーメンは、しょうゆと塩。つけ麺やトマトラーメンなどもあるが、ベーシックはこの2種類だ。
当然のように、当初はしょうゆ味を注文していた。塩ラーメンには抵抗があったからだ。だが、塩ラーメンも大変な人気のメニューである。長年の抵抗感と、好奇心とが秤にかかって、好奇心が勝った。
「塩味を頼んでやろう」という自分でもよくわからない冒険心が生じて、それを注文したのである。
これが塩ラーメンなのかと感嘆した。
黄金色に透き通るスープは、しっかりとダシが取られていて、それが塩で整えられてスッキリ、飲みやすい。塩味ゆえに、添えられた青菜にもよく合っているし、ああこれが「塩ラーメン」というものか、と深く感動したのである。
それ以降、30年近くにわたって毛嫌いしていた塩ラーメンへの印象は、がらりと好転した。今ではすっかり、塩味のとりこだ。
だんだん歳もとってくると、時々ごついばかりの豚骨ラーメンでは体が受け付けなくなることも増えてきてしまったから、そんなときにあっさり優しい塩味を楽しむことができるようになったのは、とても人生にプラスなできごとになったのである。
職場からもそんなに離れていないから、弁当のない日にはカヲルの戸をくぐるのもいいだろう。
……もちろん、昼食時ならば店外で幾時か待たねばらないのも、承知の上だ。
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