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旅をするG
G、つまりゴキのことを書きます。
苦手な方はそっと閉じてください。
今日は休日だった。
ずっとできずにいた階段掃除をようやく終えた。
私は団地に住んでいる。
10世帯が交代で共有階段を掃除する。
たまたま休みの日が雨だったり用事があったりで、のびのびにしてしまっていた。
実はやりたくなかったってのが本音だったりするが。
この季節は虫が多い。
私が宇宙で一番恐れる蝶や蛾も多い。
あのひらひらとした羽がなんとも怖い。
ご遺体となってバラバラになったヤツらは凝視すると恐ろしいので
「これは葉っぱ」
と自分に言い聞かせて箒ではく。
メガネをあえて外してぼんやりした視界で遂行するのも効果的だ。
でもときどきまだご存命のヤツに当たると突然ひらひらと飛ぶので大声で逃げ回ることになる。
今日はそんな中でGの卵の殻を見つけた。
パカっと割れていたので孵化したのだろう。
この団地に越してきてからGに会ったことがなかったのに、どこからきやがったのか。
卵が一個あったってことはその陰にどれほど大勢のGがいるのか。
やだわー。
実は私は蝶や蛾と比べたらGなんて全く怖くない。
儚げな羽がないから。
ただし不衛生ではあると思うので退治はする。
だから見つけて退治して処分してという手間がとっても面倒だから、やっぱりいて欲しくない。
Gというと思い出すことがある。
高校生のとき、登校して教科書を取り出そうと学生鞄の蓋を開けたら、Gが鞄からさささっと出てきて、あれよという間に走り去って教室の片隅に消えたのだった。
一瞬のことだったし、別に怖くはないし、そばに友達もいないし、私は特に騒ぐこともなく出来事を飲み込んだ。
でも、口には出さないけどずっと思ってた。
いつの間に入り込んだんだろう。
ずっと鞄の中にいたのかな。
そして今日からはここで繁殖していくのかな。
私が通っていた高校は、一旦隣の市まで電車で行き、路線を乗り換えてまた自分の市まで戻り、駅から20分山道を歩いた山のてっぺんにあった。
その間Gはずっと一緒に鞄の中にいたのだ。
Gにしては思いがけないちょっとした旅だったろう。
しかし旅といえば、Gは人間よりもはるかに長い命の旅をしている。
人類の起源は約500万年前。
対してGは2億年前。
大先輩だ。
繁殖力の強さ、弾力性、感覚器官や脚の発達、雑食性、飢餓への耐性、殺虫剤への抵抗性発達などなど、生き延びてきた理由を知るとやっぱり力強い。
私たち人類は彼らのようになれるだろうか。
優しい社会になるのはとっても喜ばしいことだけど、近頃なんだか勝手に傷つきやすくなっていたり、先回りして他人の気持ちを推測ってみたり、なんかかえって不自由になってやしないか。
ちょっと図々しく生きてもいい様な気がする。
人類の発展なんて大袈裟なことではなく、とりあえず自分や今周りにいる人たちだけでも逞しく生き延びられればと思う。
できれば歌でも歌って楽しく生きられれば最高なんだけど。