東京にて23:37
正論のアドバイスは時に大きな傷に
23:37
もうこんな時間か。
と、ふと時計の横にあるペンギンの
フィギュアが目に入る。
懐かしい。
3年前、稀有と一緒に水族館で
買ったんだ。
稀有は今頃なにしているんだろうか。
部屋一面に広がる東京の夜景。
仙台はもうだいぶ寒いだろうか。
「久しぶり。元気。」
そんなテンションで連絡できるわけが
なかった。
当時、仙台にきて3年、そうい28歳だった僕は
他の同期に比べ少し昇進が早く、
部下を2人持ち始めた時だった。
そんな時、
稀有と出会った。
いつものBBQ、
見かけない女の子。
聞くと、高嶋の彼女の友人らしい。
すらっと長い手足と、
透き通るような横顔。
恐らく5個以上は下だろう。
顔は幼いのになぜか大人びていた稀有を
気付けば目で追っていた。
それから、
僕はどんどん稀有の魅力にはまっていった。
感情的で、独創的。
負けず嫌いで大食い。
見た目とのGAP、コロコロと表情を
変えていく稀有は、僕にとって
新鮮だった。
稀有を育てたい
若かりし僕のおせっかい心が
2人の関係を、いや、
稀有を深く傷つけてしまった事は
他ならない。
「徹さん、
正論のアドバイスって、時に
とんな言葉よりも鋭くて深いんだよ」
そう言って
涙目になりながら
去っていく稀有を、追いかける事もなく
ただ見ていた。
「なぜ伝わらないのだろう」
「なぜ分かってくれないのだろう」
そんな事ばかりが
頭をよぎり、肝心の
稀有の心、の事なんて考える余裕もなかった。
若すぎた僕。
大人になろうと必死だった稀有。
僕たちが今また再開する事ができたら
どんな会話をするのだろう。
ウイスキーの丸氷が
溶けて、からんっという音をたてた。