なれのはて読んだよ~
昔から戦争ものが苦手で、世間一般に浸透する戦争を題材とした作品はほぼ通らずここまで来た。ただでさえ悲しくて辛い感情になるのが苦手なうえに、事実を題材にされるともうどうにも受け止めきれなくてお手上げになってしまうからだ。避けすぎたゆえに対処法を習得していないのでまあ当然と言えば当然。
なれのはてを読むにあたって、前情報で戦争のことが描かれていると耳にしたのでやや身構えたが、読後も私の精神は安寧が保たれた。所謂戦争ものでもないし、シゲアキらしい淡々とした文体に「戦争の悲惨さを後世に伝えなければ」みたいな気負いが微塵も感じられなかったからかもしれない。
シゲアキらしいなどと宣っておいて、なれのはての他はピンクとグレーしか読んでいない。けどやっぱり人間描きたさと論理的な性分が同居してか、結果として人間のドロドロした感情も波乱万丈な人生も生々しいのにどこか淡々としているところがシゲアキっぽい。
脱線するが、ピンクとグレー以来読んでいなかったのは、ピンクとグレーがあまりにもおっかなかったからである。話が、というよりは、あまりにも感情が揺さぶられてマイナス方面に引っ張られた経験が。
シゲアキの文は前述のとおり全体に淡々としているが、処女作のピンクとグレーからは自分、チャラチャラ書いてる訳じゃあございません!みたいな反骨精神というか決意ガンギマリなのが痛いくらい伝わってきた。どこに?と聞かれたら、やっぱり物語の種明かし的核心場面が。
なれのはてでもやはりこの上なく最悪な事態は起きているのだが、今回の物語の特性上もあってか比較的あっさりとしていてダメージは少なかった。えぐみが薄いぶん登場人物や時系列の複雑さ・論理性は増しているのだけど、そこから伝わってくる作者の熱意に対して読者としても読み負けてたまるか!とちょっと燃えた。初めての感情。
なれのはてですごかったのは、正しい報道とは?を全編通して論じていたところ。作者を知っている読者としては当たり前に作者のバックグラウンドに想いを馳せ、これが作者の答えなんだろうなという読み方をした。
真実を自分の目で確かめること。その上で世に周知する必要があることを選択し、然るべき時に報道する。なにもかもをつまびらかにすることが正しいわけではない。
20年以上アイドルとして色々なものを見てきた人の導きだした答えとして、あまりにも聡明で強くて優しいと思った。負のエネルギーを原動力に0から1を産み出せる人。このタイミングでこの本が出て4度も重版がかかっていること、各メディア、気まずいだろうな~などと下世話なことを思うのであった。
それから、主人公の女性への接し方がかなりよかった。年下の女性とバディになるわけだけど、その属性だけで恋愛に発展することもなく、秋田で薄着のバディに対し風邪引いても自業自得、と心のなかで思うような容赦なさ。意識してるのかしてないのかわからないが、戦時中の章では女性もそれなりの扱いをされているので、現代の主人公のこざっぱりした接し方との対比がより際立っていた。
にしても、作品の端々から作者がかなりのロマンチストであることが窺えてときめきを禁じ得ない。タクシーのシーンとか、病室のシーンとか、絵の具のこととか。特に病室のシーンの美しさには涙が出た。シゲアキの愛の表現は分かりにくく遠回しなようでいて、一度気づいてしまえばハッとするくらい直球。シゲアキには融点、沸点と同じようにロマンチック点、絶望点があると思う。
全体に景色や場面、キャラクターの造形もひっくるめて映像化にとても適している感じがしたので、いつか見てみたいなあ。
ピングレ以降発売され買ったものの積んでる本がいくつかあるので、この勢いで読みたいと思う。その前になれのはてをもう一周、と表紙を開き、やっと「澪」の意味を理解した。