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縄文ファン分類

鉄道ファンが、「乗り鉄」、「撮り鉄」、と、細分化しているように、縄文ファン自体もまた細分化している。ここでは、どこに注目しているかの「推し」と、どうやって楽しんでいるかの「型(スタイル)」を紹介する。もちろん、ほとんどの縄文ファンはいくつかの「推し」や「型」を併せ持つことが多く、極端に偏っている人は少ない。いや、縄文ファンというだけで既に偏っているのだろうか…。前にあげた流入ルートにかなり紐づいた属性になっていることは言うまでもないだろう。

縄文ファン2

丸の大きさがジャンルの中でのボリュームです。隣接する「スタイル」同士は関連がありますが、厳密ではありません。

推し

a.土偶推し

土偶のヤバさにやられた人たち。縄文時代は様々なモノが作られ出土しているが、人型の土偶は特別な存在だ。縄文人にとっても特別な存在の土偶。だからこそ土偶に夢中になる現代人も多い。人型と言っても、写実的なものは多くなく、ほとんどが抽象的で、ファンタジックな造形をしている。土偶、おもしれ〜!(年齢層:30〜50代 男女比:男6:女4)

土偶推し(かわいい)

「土偶女子」(とかつて名乗っていた)こんださんが言い出すまで、縄文界隈では土偶を「かわいい」と見る視点が皆無だったのが、ジャンルの異常性を表している。ともあれ、土偶を見てかわいいと感じる人が増えていることも事実で、それによって土偶を見る目に奥行きがあられたのも事実だと、古い縄文ファンは認めた方が良い。縄文人がどう思っていたかはわからないけど。(年齢層:20〜40代 男女比:男4:女6)

b.土器推し

出土品からすべての研究が始まる考古学の場合、モノに注目が集まるのは必然だろう。その中でも縄文の本丸は「土器」だ。王道の推しと言えるだろう。たとえ土偶かわいい推しから縄文ファンになったとしても、好きでい続ければいつかは必ず「土器」を通過せざるを得ないだろう。しかしあまりにも範囲が広すぎるせいで、この中でも型式ごと、地域、時期ごとに細分化されている。土器推しは土器を基準に他の全てのモノを見ている傾向があるのも特徴だ。全般的に土偶も好きだし石器も好きになる人も多い。ファンの中でもより研究者目線に近づくのもこの属性だ。土器を研究する研究者は「土器屋」と呼称される。(年齢層:全年代 男女比:男6:女4)

土器推し(型式推し)

いくつ型式があるのかはちょっと把握していないが、型式の数だけ推しがいる(人気と不人気の推しがいるだけで)。たとえばワーキャー人気の火焔型、図像人気の勝坂式、玄人ウケの黒浜式にみんな大好き諸磯式。焼町、大木式、やっぱりオレは円筒下層式がいいな、などなど。全部の土器を箱推しするファンのことを「全土」という(今勝手に名付けた)。

土器推し(時代推し)

早期推し、前期推し、中期推し、後期推し、晩期推しと、時期によっても推しが別れ、る。主に土器を中心に、早期〜晩期まで好きな土器の揃っている時代を推すことがある。人気は中期と晩期。よりマニアックになると前期、早期に興味が向かう。草創期推しには会ったことがないのと、後期推しもなぜか少ない。

c.石器・骨角器推し

それほど多くはないけれど、確実に存在する。自分で石器作りをする人も多く。制作も込みで石器や骨角器が好きになっている。縄文とは関係なくそれらを推す人もいる。研究者の石器派は「石屋」と呼ばれるが、この場合は往々にして旧石器の研究者を指す。(年齢層:40〜50代 男女比:男8:女2)

d.遺跡推し

遺跡に注目するグループ、土器推しからの遺跡推しが主な構成だが、この中でも細分化すると、地形、景観から遺構や住居址のさまざまな形態、記念碑的な建造物の跡から落とし穴まで、ほとんど見えないけれど、実はかなり噛みごたえのあるジャンルだ。地形や古地図マニアも乗り入れ可能なグループ。アウトドア業界からの視線は今のところほとんどないが、可能性は無限大である。(年齢層:30〜50代 男女比:男6:女4)

e.歴史推し

郷土史の一部として縄文を楽しむグループと、日本の歴史の一部として縄文を楽しむグループの2パターンが存在する。前者は地元の歴史を俯瞰し、後者は旧石器、弥生、古墳にも詳しく古代を俯瞰する。しかし、古代の場合は文献がない分モノに目がいってしまうため、他の時代に比べ、どうしてもこの層が薄くなる。(年齢層:30〜60代 男女比:男7:女3)

f.それ以外の何か

という注目ポイントも確かに存在する。それはフィーリングなのか概念なのか、不思議なポイントだけど、それすらも不思議ではないのが縄文というジャンルだ。

g.他の歴史ジャンルにあって縄文には存在しない推し

実は縄文ファンには他の歴史ファンのなかでメインの層になるはずの「推し」が存在していない。それは「人物」と「事件」だ。何しろ文献の一切無い時代である縄文時代。人名どころか固有名詞は一切わから無い。「事件」に関してはかろうじて推測できるものがあることは確かだが、全ては推測の域を出ない。

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「型」ーー楽しみ方のスタイル

巡礼型

アイドルやミュージシャンであればライブ、俳優のファンであれば映画館、鉄道ファンであれば乗車。現場に行くことはファンの最も正しい姿勢だ。縄文の場合であれば考古館巡礼型がそれにあたる。直接的に見に行くことで、理解できることも多く、ジャンルへの貢献も地域への貢献も大きい。

1.考古館巡り型、企画展巡礼派

企画展を中心に考古館巡りをする派。常設展も同時に見れるので効率は良くオールラウンドに資料を見ることができる。縄文巡礼のスタンダード。企画展でしか見れない資料も多い。ただし企画展を開催する考古館は年に2回、3回と開催するが、全く開催しない考古館もある。だいたいは常設展巡礼派と兼用されている。(年齢層:30〜50代 男女比:男7:女3)

2.考古館巡り型縄文、常設展示巡礼派

常設展示巡礼派もいる。考古館や縄文の資料を置いている郷土館は各地にとにかく数が多いので、なるべく多くの考古館に行こうと思うと企画展を待ってはいられない。個人的には企画展と常設展示はバランスよく見れば良いと思うが、軸足をどこに持っていくかがスタイルを分ける。常設厨。(年齢層:30〜50代 男女比:男8:女2)

3.遺跡巡礼型

遺跡には何もない、が、変わらないであろう一部の景色と、地形と、そこに「あった」という記憶がある。ただ、本当に立て札さえない遺跡も多く、山の中や、住宅街、畑のどこか。幹線道路から離れている場合も多いので、遺跡を中心に縄文を見ることは時間的にも心理的にも難易度が高い。しかし、この楽しみがわかるとやめられなくなる。
ここからは別の話題だが、遺跡巡礼型には表採(土器拾い)を狙っているグレーな一派もいる。遺跡に行けば土器を拾えるが原則は禁止だ。表採のどこに線を引くのかはっきりとした基準はいまだに無い。今後ジャンルが大きくなっていくとちゃんと問題になりそうで怖い。(年齢層:30〜50代 男女比:男5:女5)

4.実践型

実際に縄文時代の暮らしやものづくりを実践する縄文ファン。土偶作り、土器づくりのような実践から、火おこしや、石器作り、はたまた竪穴住居づくりまで、作ることでわかることも多く、見えない師匠(縄文人)と対話する姿は実直さも感じる。このスタイルは既存の土器や土偶、暮らしを再現する「再現型」と、アートとしての視点で縄文を見ている「創作型」の二種類がある。
中にはこのスタイルで行くところまで行ってしまう人「エクストリーム実践型」もいて、道はとどまることを知らず、いつの間にか里に降りて来れなくなるので注意だ。この道は困難も多く実践している人を大変尊敬しているが、実践と実感にこだわるあまり、概説を軽視しがちな時がある。(年齢層:小学生〜中2まで、30後半〜60代(体力次第) 男女比:男6:女4)

5.SNS型

このスタイルも2種類あり、実際に考古館や博物館にはあまり見に行かず、ネットで資料を見る「在宅投稿型」縄文ファンと、SNSでつぶやきたいがために縄文を見に行く「写真投稿型」縄文ファンがいる。どちらもSNSは割と得意で、発信力があり、縄文ファンの拡散に繋がったり入り口になることもある。後者はともかく、縄文はなかなか実際に見に行くのは大変なので、前者のような楽しみ方がネット上にあっても良い。行けるときに見に行って欲しい。…のだが、アイドルファンで言えば、現場に行かない在宅ファンのようなもので、その熱量を値踏みされることもこれからはあるだろう。事実、ネットで縄文を俯瞰できても、実際に土器を見て何かを感じたり心が温まったり、背筋が冷たくなったりはしない。(年齢層:20〜40代 男女比:男5:女5)

6.グッズ制作、購入型

グッズを制作したり、生活に縄文を取り入れるという実践型の現代的傍流。傍流と言っても細いわけではなく、縄文ファンや古代ファンに向け浅くとも広く需要を満たしている。良いグッズを作るとなると実際に見に行ったり、しっかりとした観察眼が必要なため、良いグッズ作りは思うよりも難しい。課題はジャンルを越えてアピールすることになるだろう。また、制作者に限って言えば、ファンなのか業者なのかと葛藤する日が今後訪れる可能性もある。(年齢層:20〜40代 男女比:男4:女6)

7.現説参加型、シンポジウム参加型

考古館巡礼の最たるものがこの現説参加型、シンポジウム参加型だ。特に現説(現場説明会、発掘の現状を地域の住民を中心に紹介する遺跡での解説会)は、ライブ感があり、行けば思いのほか楽しい体験になる。現説によっては参加者を楽しませる仕掛けや、報告前(報告書作成の前)の資料を簡易的に展示したりもしてくれる。(年齢層:40後半〜70代 男女比:男8:女2)

8.発掘作業や解説員参加型

発掘作業や解説員のボランティアに参加する参加型縄文もまた愛の凝縮した形だ。僕もいつか…と、ちょっと思っている。(年齢層:40後半〜70代 男女比:男4:女6)

9.研究者型

ファンでありながら土器の文様の意味や、型式、文化を研究するスタイル。かつては研究者型こそが縄文ファンの代表だった時代も。在野にあっても、過去に大学や専門教育を経験した方も多く、企画展や現地説明会、シンポジウムなどにもよく出席する。自身のテーマを持ち、能動的に資料を集め、論文をおこすような見本のような研究者型もいる。その知識量はジャンルによっては専門家を凌駕する場合もある。少なくとも情熱では負けていないだろう。ただし、研究の「筋」が悪く、自説を学芸員にぶつけて困らせるタイプもいる。郷土史からの流れで研究者型になる場合も多く、土着的な側面も持つ。(年齢層:30〜70代 男女比:男7:女3)

10.フィーリング型

あくまでもフィーリングを大切にするスタイル。展示解説や概説よりも「自分がどう思ったか」が大切。縄文土器や土偶はそういう楽しみ方も喚起させる部分も確かにあり、そうさせるように作られている可能性もあるわけだから、あながち間違っているとも言い切れない。もしかしたら、もしかしたらですよ、これが一番正しいスタイルなのかもしれない。(年齢層:30〜50代 男女比:男3:女7)

11.地元ラブ型

地元を中心に考古館を巡ったり、遺跡に関わったり、調べたりする。地元ラブ型の縄文ファン。他地域にまで興味が向かず、近視的になりがちだが、そもそも縄文時代は地元ラブな時代なので、こちらも正しいスタイルなのかもしれない。(年齢層:30〜50代 男女比:男5:女5)

12.アームチェア型

遺跡や考古館にはあまり出かけず、書籍やかつて撮りためた土器の写真を眺めながら酒を飲み空想にふけるアームチェア型縄文ファン。知識は豊富だが、考えている時間が長い分、何かが凝縮している。このスタイルと「文献・資料収集型」は、ほとんどSNSなどもあまりやらない人が多いのでなかなか捕捉できないが、決して少ないわけではない。(年齢層:50〜80代 男女比:男10:女0)

13.文献・資料収集型

資料性の高い書籍や、文献を探し収集するスタイルの縄文ファン。紙の本にこだわり、重要な遺跡は報告書も手に入れる。古書は高価なものも多く、その情熱は財布を空にすることも厭わないところがあり、家族は少し困っている。古書や文献にこだわるのはなぜか男が多い。(年齢層:40〜70代 男女比:男9:女1)

14.土器収集型縄文

土器をコレクションするタイプの縄文ファン。このスタイルで縄文を楽しむ縄文ファンは古くは江戸時代から存在し、当時は主流といっても良いスタイルだった。通常は文化財として博物館や考古館に並ぶ土器だが、文化財に関する法ができる前は公的にも一般的にも売買されることが普通だった。現在は土器は文化財という認識が広まり、表採問題もまた絡んでいて、あまり良くは思われていないところもあるスタイルだ。が、既に市場に回っているものについてのほとんどのモノは法的にはまったく問題はない。とやかく言うべきではないだろう。欲しい人は購入したら良いと思う(ヤフオクではよく偽物が出ているので注意!)。博物館で普段目にするあの土器や土偶ももともとは購入されたものも少なくない。ただし、売買されるものは出土遺跡が不明なものも多く、学術的な価値が低いものも多い。良いものは収集の難易度も高く、また「自慢」し辛い部分もあり、今ではこのタイプの楽しみ方をする縄文ファンはそれほど多くはない。(年齢層:40後半〜60代 男女比:男9:女1)

15.日本すごい型

自身の「日本すごい欲」を満足させるために縄文を楽しむ層。また「縄文=右寄り」の構図を想像してしまったパターンも。願わくば、日本すごいでは無い部分で縄文に興味を持ってもらえたら…。(年齢層:40後半〜60代 男女比:男7:女3)


最後に

とこのように分類してみましたが、あくまでも体感値として考えてみたものです。言いたいのは一口に縄文が好きだと行っても、いろんな楽しみ方があるということ。さらにはこの中にも濃淡があるので、本当に人それぞれの楽しみ方があるのが縄文なんだと思います。また、これが全てだとは思いません。私はこういうスタイルで楽しんでいる、こんなところを見ているなどなど教えてくれたら追記したいと思います。

ということで、皆さん、考古館で、インターネットで、お会いしましょう!


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