イタリア初の女性首相の精悍
イタリアではベルルスコーニ元首相が6月12日に死去した直後から、彼も参与していたメローニ政権の先行きを危ぶむ声が多く聞かれました。
86歳だったベルルスコーニ元首相はキングメーカーを自認し、周りからは政権の肝煎りとしての役割も期待されていました。
メローニ政権は首相自身が党首を務める「イタリアの同胞」と故ベルルスコーニ氏が党首だった「フォルツァ・イタリア」、またサルビーニ副首相兼インフラ相が党首の「同盟」の3党連立政権です。
連立を組む3党はいずれも保守政党。イタリアでは中道右派と規定されます。だがその中で中道の呼び方にふさわしいのは、元首相の「フォルツァ・イタリア」のみです。
メローニ首相率いる議会第1党の「イタリアの同胞」は、ファシスト党の流れを汲む極右政党。政権第2党の「同盟も極右と呼ばれることが多い超保守勢力です。
「フォルツァ・イタリア」も極右2党に迫るほどの保守派ですが、ベルルスコーニ元首相を筆頭に親EU(欧州連合)で結束しているところが2党とは違います。
メローニ首相はベルルスコーニ政権で閣僚を務めたこともある親ベルルスコーニ派。「同盟」のサルビーニ党首も、過去に4期、計9年余も首相を務めたベルルスコーニ氏に一目置いている、という関係でした。
ベルルスコーニ元首相が政権の調整役、という役割を負っても不思議ではなかったのです。
政権の副首相兼インフラ大臣でもあるサルビーニ「同盟」党首は、野心家で何かと独善的に動く傾向があり、過去の政権内でも多くの問題を起こしています。
そのためベルルスコーニ元首相の死去を受けて、サルビーニ副首相兼インフラ相が俄かに勢いづいて動乱の狼煙をあげるのではないか、と危惧されました。
それは杞憂ではありませんでした。サルビーニ氏は先日、来たる欧州議会選挙ではフランス極右の国民連合と、ドイツ極右の「ドイツのための選択肢」とも共闘するべき、と主張し始めたのです。
するとすぐに「フォルツァ・イタリア」の実質党首で外相のタイヤーニ氏が、極右の2党とは手を結ぶべきではない、と反論。連立政権内での軋みが表面化しました。
「フォルツァ・イタリア」はベルルスコーニ党首の死後、ナンバー2のタイヤーニ外相(兼副首相)が党を率いていますが、彼にはベルルスコーニ元首相ほどのカリスマや求心力はありません。
それでも政権内ではタイヤーニ外相の存在は軽くありません。彼とサルビーニ氏の対立は、一歩間違えば政権崩壊への道筋にもなりかねない重いものです。
メローニ首相は、前述の欧州最強の極右勢力との共闘については今のところ沈黙しています。
彼女は選挙前、サルビーニ氏以上の激しさで極右的な主張を展開しました。だが総選挙を制して首班になってからは、激烈な言動を控えて聡叡になりました。
ある意味で一国のトップにふさわしい言動を続けて、風格さえ漂わせるようになったのです。
メローニ首相にはもはやベルルコーニ元首相のような仲介役は政権内に要らないのかもしれません。独自にサルビーニ氏をあしらう法を編み出したのではないか、と見えるほど落ち着いています。
彼女がこの先、サルビーニ“仁義なき戦い”大臣をうまく制御できるようになれば、連立政権は長続きするでしょう。
だがその逆であるならば、イタリア初の女性首相の栄光は終わって、早晩イタリア共和国の「いつもの」政治不安の季節が訪れるに違いありません。
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