見出し画像

大国の侵略を止めようとするウクライナのネット戦略と知恵

大国に自国が占領され、他国の経済制裁のみで侵略は止まりそうにない。そんな小国に残されたものは、国際世論と大国の世論しかない。ウクライナの世論を巻き込む情報戦には目を見張るものがある。他の国ではこうはいかないに違いない。

1 共感を呼びやすい情報の拡散とIT活用

 もともと大統領自身が俳優出身、デジタル相も31歳と若く、facebookへの登場も普段着、一般市民に近い立場に身を置きつつ、TwitterやITを駆使して、イーロンマスクに対する衛星支援の呼びかけ暗号資産による資金の獲得、制裁の呼びかけを行っている。

2 侵略国の国民に対するストーリーを動かす

  外から動かないとき、動かせるのは大国内の世論のみだ。そのため、大国は、国民を戦わせるストーリーが崩れないように、情報を統制し、デモ等の言論を厳罰により封じる。ロシアも、今月に入ってからFacebook等のSNSを制限し、政府の方針にそぐわない報道をする報道機関を排除している。

 これに対して、ウクライナ側の情報拡散は巧みだ。

 ウクライナ大使が国連で読み上げたのは、戦争で亡くなったロシア人兵士の母親へのメッセージだった。ウクライナという国を意識させるのではなく、侵略により生じる非人道的な側面に焦点を当て、国籍を問わずSNSで拡散されやすい情報を発信している。ロシア国内に対しても、息子を戦争で失う家族に対して、ロシアの母親達は私達の敵ではないといった呼びかけを行っている。

 その結果か、最近ではテニス選手のシャラポワのように、ロシア人であっても、国を追われる子供達への支援を呼びかける著名人も出てきている。国民が海外でも生活する現代、自国の行為であっても悲惨な出来事から目を背けない勇気ある発言をシェアしたい。

 一方のロシア国内では、メディアによる情報報道が制限されているため、ウクライナの方から戦争をしかけたと信じている人もいるとのことである。

 そこで、ウクライナに賛同して行動するユーザー達は、ロシア国内への人海戦術によりメールを配信したり、通販サイトの口コミに書き込んだり、Tor経由でのSNSサイトを開設したりと、ロシア国内のロシア人に直接情報を届ける方法を試しているという。太平洋戦争中、政府に都合のよい戦況しか知らされず戦い続ける日本人にサイパンから短波放送をしていたそうだが、その頃に比べるともっと情報が伝わりやすくなっている。

3  8年間の防衛とサイバー戦争

 今回国土の侵略が注目を浴びたが、情報変革担当副大臣によれば、サイバー攻撃については、すでに8年前から始まっており、この間ウクライナは防衛を継続してきたとのことだ。サイバー戦争は目立たないが防衛体制は8年前から準備されていたことになる。防衛とは別に、今回の侵略を機に、世界中からボランティアハッカーを集めたウクライナIT軍を発足するなど攻撃側が準備されている。このIT軍というのは新しいが、参加者の属性は未知である。ウクライナがコントロールできずに公共インフラが攻撃された場合、状況がエスカレートするのではないかという懸念も出ている