見出し画像

貧困と欠乏の元にある資本主義~『人新生の「資本論」』レビュー➀



序章: 世紀を超えて大量虐殺を生む資本主義


『人新生の「資本論」』を読めば、

世界中の人々がこの数百年間に渡って断トツ1位で忖度してきたものがよく分かる。

より精確に言えば、忖度せずにはいられなかったものだ。

学生時代以降は、その忖度なしで社会を生き抜くことはできない。就職や出世や結婚はもちろん、大きな夢を持つことや慎ましく生きることさえも許されはしない。

その正体は資本主義である。

斎藤幸平による本書は資本主義というものが、いかに強く私たちの心を支配してきたかについて明快に教えてくれる。

斎藤が指摘するよう、コロナをもたらしたのは根本的に資本主義だ。一方で、現在のロシアによるウクライナ侵攻も同様。

ナチスや大日本帝国の時代から100年近くたっても同じ大量殺戮・ジェノサイドが行われているのも資本主義が続いているからだ。

倫理を無視した利潤の最優先原則が習近平やプーチンのような独裁者を野放しにして、壊滅的なパンデミックや侵略戦争の火種を作ったのだ。書評と共にそこからインスパイアされた私の世界観を記しておきたい。


1: 商品なき世界は地獄ではない。

著者・斎藤幸平は本書で徹底的に資本主義を攻撃している。忖度はゼロだ。職業的に資本主義への忖度から免れた者は、学者とアーティストだけだ。

学者はファクトベースで思考力を駆使し、アーティストはフィクションベースで想像力を駆使し、世界の外側から資本主義を壊し、そして世界を再構築してゆく。

斎藤は本書で本来アウトサイダーであるべき学者の使命をみごとに果たしている。これは日本では極めて珍しいことであり、その勇猛さが本書の人気の大きな要因になっているのは間違いない。

この名著が私に何よりも突きつけたものは、資本主義がいかに多くの人の心を圧倒的に支配しているのかという事だ。


コロナ禍というパンデミックにおいても、人の命とほぼ等しいレベルで「経済を回す」ことが日本だけではなく世界中で叫ばれていた。

資本主義がない世界をほとんどの人はこの世の終わりのように思っている。この世からお金や商品や労働がなくなることをリアルに想像することさえ出来ないのだ。私にもその感覚が少なからずある。

だが本書はそんな世界が充分に実現可能であることを教えてくれる。資本主義はよく言われるよう、現代の宗教である。

Nirvanaの『Never Mind』の有名なアルバムジャケット

が明示しているよう、私たちは赤ちゃんの時から札束を追いかけるよう宿命づけられている。

しかし洗脳はどれもいずれ解かれる宿命にある。資本主義こそが現代社会の元凶であると気づくときが必ずやって来るのだ。


2: 資本主義こそが貧しさをもたらす

資本主義が私たちを貧困に追いやっているという逆説は、本書のメインテーマの1つだろう。これは筋の通った真実である。

斎藤が指摘するよう、資本とは本質的にコモンという公富を解体して希少価値を与え、一部の人たちがそれを独占販売することで利潤を上げるという仕組みになっている。

分かりやすい例が土地だ。本来、誰のものでもない土地を一部の地主が所有することで希少価値を捏造し、高く売りつけるということだ。

それがパラドックスをもたらす。資本家がコモンを奪って利潤を得れば国のGDPは上がるが、それによってコモンを奪われた庶民は貧しくなってゆく。

1970年代の日本の高度経済成長期においては、貧しくなる人たちは主に国外にいた。

豊かになってゆく日本のその陰には本書がグローバルサウスと呼ぶ後進国があった。そこでは自然環境が搾取され、当地の人たちの暮らしぶりは以前よりもひどくなった。

高度成長期に日本総出で築き上げた国内のコモン・公富はその後、資本と政治によって解体され一部の富裕層が独占するようになる。

それによって現代の日本では、GDPアップの影で貧しくなる人たちが国内に噴出した。

安倍政権時代、戦後最高の好景気が続いたが、庶民はそれをまったく実感できなかったのもそういうワケだ。

誰かが豊かになれば誰かが貧しくなるのは当然のことだと思う人もいるだろう。だが、その貧しくなるものが地球だとしたらどうなるのか。
資本主義は多くの人を貧しくし、自然環境に負荷を与えて地球自体をも貧しくさせている。

つまり資本が豊かにするものは、
長期的に見れば何1つとして存在しないのだ。

2に続く。


いいなと思ったら応援しよう!