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それは「まかない」ではありません

学校給食の『調理員』が『まかない』を作って教職員に配っていた件で処分されたという新聞社の記事が出ました。これに「なんでこれくらいで処分されるんだ」「廃棄を減らしたのだからよいことではないか」みたいなコメントが著名なジャーナリストからもネット記事にぶら下がっております。あのー・・・それ、『まかない』じゃありませんから。

『まかない』とはなにか。まかないとは、飲食業界の厨房で働く肉体労働者への、現場での消費に限定された食事の提供です。これを現場(厨房)から出して、厨房外の人に出したら、それはもう、まかないではありません。まったく別のなにかです。

飲食業界で働く人は、生活時間がふつうの労働者と違います。飲食を提供する施設は、昼と夜に食の提供を行うところ、夜だけのところ、24時間など、規模も含めてさまざまです。ひとついえるのは、このような現場で働いている人たちは、ほとんどの場合において、多くの人が食事をしている時間、例えば朝ごはんの時間帯、ランチタイム、ディナータイムには、いちばん忙しく働いている、つまり、みんなと同じ時間に食事はできない、ということです。

私も自営業の頃によくあったのですが、自分の仕事がひと段落して、おなかすいた、と思ってランチ食べさせてくれるところないかなと探したって、もう、通しで営業しているチェーン店しかないんです。意外と、食べ物にアクセスしづらい。そういう事情もあるし、それほど給与水準が高い業界でもないので、ある種の福利厚生というか現物支給的な意味合いか、現場で労働者に食事を提供しているところは多いと思います。

ただ、それは、現場完結。ありあわせのもので作って、出して、食べて、終了。出すか出さないかは経営者が決めることです。経営判断です。その判断の上で、出していないところも、もちろんある。現場の従業員が独断で、再調理し、厨房内で消費するのではなく持ち出して分配していた、ということであったら、それは、まかないとは似ても似つかない、まったく別のものです。

そもそも、そのような判断と執行、分配には権限が必要なはずですが、記事中では『調理員』と書かれている。そのような権限を持つ責任者であるという表現ではありません。にもかかわらず、そのような行為が、通報されるまで継続されていたということは、そこに『実権』があったと想像することができます。

なぜそれが可能だったのか。ふつう、そんなことはできません。業界に働くひとりとして、違和感があります。大量調理の現場の管理は在庫含めて非常に厳しく、調理員が食材を自由に使えるなどということは、ありえません。

学校給食を含む大量調理施設の現場の多くは、下請け事業者によって支えられています。委託元が「なんかいわれたら面倒だからこれからまかないはナシね」とひとこといったら、その日からまかないは、なし。

大量調理の現場には高齢者も多いです。調理現場にはさまざまな仕事があり、例えば洗浄(皿洗い的なもの)のような仕事であれば、高齢でも経験がなくてもすぐに働けるからです。しかし、高給とはいえません。それでも働き続けなければ生きていけない多くの現場の労働者にとって、日々の食費が少しでも浮く『まかない』は、貴重です。ある意味、命にかかわるといっていい場合もあると思う。

誰かから聞いた業界用語をわかった気になって鵜呑みにせず、なぜそうなったかをさかのぼって調べたら、果たしてこの記者の方は『まかない』などという言葉を使ったでしょうか。

このような異例の出来事が『まかない』などという間違った言葉の使い方で独り歩きして、世の『まかない』の廃止促進につながらないことを切に祈るばかりです。




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