「心の川」~短編
遠く遠く離れたその場所に
その川は流れている
それは皮肉にさえ思えるほど
私の心を象徴する
絶望や失意を 私の目に映しこむ
その川は 私の想う人が暮らしている家のすぐ近くを流れる
私の想う人 それは離れ離れになった今も その人を想い
老いてもなお その人を想う気持ちは変わらない
もう何年になるだろう
あの人が横浜を去ったのは
あの人のいないこちらは空虚なもので
私なりに幸せを見つけて埋めようと試みてきた でも 心の奥底にあの人の存在があったのか 新たな幸せという私が求める縁とは結ばれず 今もこうしてひとりエッセイを綴る日々を送っている
私は心の弱い人間で
会うことは良しとされないと知りつつも
あの人に会いに
その川の流れる町を数回訪ねた
私は限られた時間の中で
1分1秒を 身体に切り刻むような気持で
過ぎる去る刻を残酷に感じながら 一緒に過ごした
次に会うことはもう許されない
叶わないのではないか
そんな一抹の不安にかられながらも
私はいつも胃をえぐり取られるような気持で
あの川沿いを走り 帰路に向かう
あの川が 自身の心を映し出すかのように
なぜか 黒く 深く そして茶色く濁り
重く ゆっくり ゆっくり
うねるようにして流れる
あの川が 黒く 重く
うねるように流れる以外は
私の記憶にはない
それを今も思い出す度に
胃がえぐられるような感覚に襲われ
それでも またあの川の流れる町へ
あの人に会いに
あの川沿いを走り
あの川を見てみたくなる想いに駆られる
あの人に会うなら
あの人の住む町へ向かうなら
あの川の黒の深さと その重さは
帰路の度に 自身へ更に
増してのしかかってくるのであろう
自虐的行為とわかっているのに
自分の目にあの川がどう映るのか
それでも試してみたくなる
許されるなら
それをいつまでも
胃をえぐられるようなあの川の黒さと重さを感じ ずっと続けていきたいと願う
痛みを増そうが 傷を深めようが
一向に構わないと思う自分がいる
もう一度 あの人に会いたい
そして帰路に向かう道中の
自分の心を確かめたい
あの川にどう映るのか
自分をこの目で見てみたい
私は
その日のために
今を生きているような気がする
2024年7月3日
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