【300字グルメ小説】英雄ポロネーズ
パスタ屋でウェイトレスをしていた頃の話。
店のそばには音大附属の高校があり、ここの生徒がいたずら好きでまいった。注文の中に、さりげなくおかしなものを混ぜるのだ。
「森のサラダと、英雄ポロネーズと……」
「英雄ポロネーズ? そんなメニューねーよ!」
ヤクザより怖いコックの哲さんに大声で怒鳴られる。
青ざめたままテーブルに確認しに行くと、
「そんなの頼んでないですよ?」
ドリンクバーのジュースを飲みながら全員しれっとしている。
何年も後になって「英雄ポロネーズ」はピアノ曲の題名だと分かった。悪ガキどもめ。
あの子たちももう社会人。みんな音楽の仕事をしているのだろうか。
私は母親になり、哲さんは台所で離乳食を作っている。