熊本旅行記(2日目 阿蘇)
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2018年2月14日
ホテルの朝ごはんは、もやしと豚肉を蒸したものと、地元で採れたという苦みのあるレタスが美味しかった。辛子れんこんもあり、こちらに来て初めて熊本らしいものを食べた。
春節が近いため、周りはみんな中国語だ。
食後、外に出て写真を撮った。
「空が近いね」
とDちゃんが言う。
確かに、山の斜面に雲がかかり、歩きで雲の上まで行けそうだ。
部屋に戻って、窓からぼーっと阿蘇の景色を眺めていたら、
「旅行に来る前の私は、何であんなに追いつめられていたのだろう」
と不思議に思った。やらなければいけないことは沢山あるのに、やる気が起きなかったり眠かったりで、てきぱきと動くことが出来ず、落ち込んでいた。
ここではまずやらなければいけないことがないし、いっぱい寝られるし、ただ無心に山や畑を見つめているだけで楽しい。冬の阿蘇は想像以上に寒く(南の方にあるから関東より先に春が来ていると勘違いしていた)温泉好きでもなければ「何しに来たの?」という感じではあるのだけれど、やっぱり来て良かったと思った。
昼は昨日とは違う郷土料理のお店「ひめ路」に向かった。ホテルから二キロほど離れている。阿蘇の店や道は明らかに車を持っている人用に出来ていて、車なしの我々はなかなか大変だ。しかし裏道を歩くと、家並の途切れた空間など、あちこちから美しい山が現れて素晴らしい。雪化粧された山肌が日に当たり、薄紅色に光っている。心なごむ眺めだった。
ひめ路には開店前に着いた。
昨日のことがあるから、まず営業しているのかが気になった。
おっ、灯りが点き、開店の準備をしている様子! 入り口の横で待っていた我々にお店の人が気付いてくれて、開店時刻の前だというのに中に入れてくれた。ホテルから歩いてきたと言うと驚いていた。駅からも遠いし、普通は車で来るより他ない場所だ。
「ふお~ ようやく食べられる~!」
だご汁と高菜めしの定食がテーブルにやって来た。
だご汁にはカボチャ、ごぼう、にんじん、里いも、しめじ、青ネギに、ぴらっとしたすいとん(小麦粉のだんご。だご)が入っている。優しいみそ味で、だしが主張する訳ではないのにしっかり美味しい。
私は家でよく高菜チャーハンを作るのだが、ここの高菜めしはそれよりも、高菜の酸味を利かせている。小鉢の味も良く、素朴ながら最高の阿蘇ごはんだった。
再び裏道を二キロ歩いてホテルに戻り、預けていたスーツケースを受け取って駅まで一キロ歩く。
途中、鳥など動物の形に刈り込まれた植木が無数に並ぶ家があった。
「村上春樹の熊本旅行記にも、こういうのが出てきたな。この辺りではやる人が多いのだろうか」
とぼんやり通り過ぎてしまった。後で調べてみると、どうやら村上春樹が見たのと同じ人だったらしい(苗字が一緒)村上春樹オタクとしての聖地巡礼だったのに、その場では気付かなかった。うう。
道の駅に寄り、ソフトクリームを食べる。濃いのとさっぱりしたのと二種類あって選べるのだが、残念ながら濃い方は品切れ中だった。さっぱりした方も悪くない。
阿蘇駅で荷物をコインロッカーに入れ(スーツケースが収まる大きさで助かった)「olmo coppia」というカフェを目指す。
阿蘇の特徴はとにかく360°山に囲まれていて(外輪山と火口のある中心部)ある程度高さのあるところからならぐるーっと一周、山が見える。
こんな景観は初めてで珍しく、何度もくるりくるり回って周りを見渡した。
olmo coppiaは田畑と住宅地の間にある。
「何故ここにこんな店が?」
と首をひねってしまう程おしゃれだった。
東京でもこんな素敵なカフェはそうそうない。
二人でホットジンジャーエールを頼み、Dちゃんはガトーバスクというケーキも食べた。パイナップルのジャムが挟まったタルトで、添えてある金柑のコンポートが特に美味しかったそうだ。
何だか今日は食べ物運が良いぞ、私たち。
この店には暖炉があり、時々たき木がぱちっとはぜた。
エアコンの生活は本当に便利なのだろうかと疑い始めるほど暖かい。本物の火が、体の芯までじわーっと暖めてくれる。お店の人も親切で可愛らしかった。
駅に戻る高台で、360°山の眺めを名残惜しんだ。こういう土地で育つと、山に守られている気持ちになるのだろうか。山に阻まれてどこにも行けないと絶望するのだろうか。地形はあまり関係ないのだろうか。
阿蘇五岳はブッダの涅槃像にたとえられるという。
「あの山が顔で、仰向けになっているんだね」
「ブッダがぐーすかーって上向いて寝てるの? 横向きでしょ?」
とDちゃんは言う。どっちなんだろう。
熊本市へ向かうバスは、昨日のうちにDちゃんがスマホで予約しておいてくれたので、無事に乗ることが出来た。
阿蘇の山と別れるのが寂しかった。
(こちらに続きます↓)