海外事例研究|米国・インフラにおける橋の重要度評価調査
はじめに
GEOTRAインターン生の筒井です。
2024年3月26日に米国東部メリーランド州のボルティモアで大型船が橋に衝突し橋が崩落した事故が起きました。事故による橋の閉鎖は、橋を移動経路としている地域住民に大きな影響を与えたといわれています。米国の多くの橋は、状態が悪いにもかかわらず、補修がされていません。
本記事では、米国のインフラにおける橋の重要性を評価した調査結果について紹介します。
背景
連邦道路管理局(FHWA)によると、米国には620,000の橋があり、そのうち約40%が耐用年数の50年を超えても補修されておらず、約42,000の橋が「劣悪な状態」にあるとされています(注1)。
米国Replica社は、独自のデータベースを利用し、米国のインフラにおける橋の重要性を評価した調査結果を発表しています。
データベースには、米国にある各橋の状態、交通パターン、そしてそれらを利用する地域の人口統計に関するデータが含まれます。
(注1)出典: Bridge Condition by Highway System 2023
連邦道路管理局(FHWA)が管理するNational Bridge Databaseには、場所、分類、築年数、検査履歴、状態など、米国の60万の橋に関する情報が含まれています。一方で、移動手段、出発地及び目的地、橋の利用者の人口統計に関する詳細なデータが欠けています。
このData baseのみでは、周辺コミュニティに対する橋の重要性を十分に把握することが出来ず、公平な観点から、橋の脆弱性に関する評価を行うことは困難です。
そこで、Replica社はAlta Planning + Design社およびHEAVY.AI社と提携して、Replica社の保有する詳細な移動データを用いて、National Bridge Databaseと掛け合わせることで、橋の重要度に関するスコアを生成しました。
同スコアを用いることで、周辺コミュニティに対する影響度の観点から、橋梁の優先順位を付けることが出来、州政府や地方自治体がインフラ投資の意思決定をする際の参考情報となる他、インフラ投資に関する助成金を最大限に活用することが出来ます。
調査方法
調査方法として、まず、水域を横切り、長さが750フィート以上の橋、4,600の橋に関するデータ(データベース全体の約1%)に着目し、Replica社が保有する、以下情報をデータベースに追加しました。
1日の総移動回数
慢性的貧困地域(米国運輸省の定義による)の住民による移動回数
貧困ラインの2倍未満の世帯(以下、やや貧困層)の人の移動回数
商用貨物車両による移動回数
アクティブな交通手段(徒歩および自転車)による移動回数
橋を利用するすべての移動の出発地と目的地
このデータベースでは、従来の橋の状態情報(ハード面)のみならず、橋の利用者(ソフト面)に関するデータも含むこととなります。双方の観点を用いて橋の重要度を評価することで、修繕資金を最も必要とする橋の特定に役立ちます。
調査結果
Replica社が報告している調査結果は以下となります。
・全国的に、慢性的貧困地域にある橋の9%が劣悪な状態とされ、慢性的貧困地域にない橋の6%が劣悪な状態とされます。(慢性的貧困地域にある橋は、そうでない橋と比べて1.5倍劣悪な状態とされます)
・状態が「悪い」と評価された橋では、「良い」と評価された橋の約2倍、徒歩及び自転車利用者が多いことが明らかとなっています。
・4,600の橋のうち670の橋では、やや貧困層の世帯の利用者が25%以上を占めており、テキサス州、ルイジアナ州、ミシシッピ州では、このような橋が多くみられます。
・米国で最も重要な橋は、ジョージ ワシントン橋です。米国で最も交通量が多く、都市圏の重要な通勤動脈として機能を果たしています。一方で、「悪い」と評価された橋の中で、最も悪いとされる橋は、サウスカロライナ州サムター郡のUS-76の橋です。
・テキサス州、ルイジアナ州、カリフォルニア州には、重要度スコアが50を超える橋が40本以上あります。(他の州では、31本を超える橋はありません)以下のグラフで、各州の全内訳を確認できます。
まとめ
今回、Replica社が作成したデータベースから、米国の主要な橋が及ぼす低所得者への影響等を把握することが出来ます。
今回は、米国での事例について紹介しましたが、本邦での弊社取り組みについても過去に取り上げておりますので、是非ご覧ください。
本邦において、地方自治体が管理する橋は、2021年3月末の時点で、約68,000か所の橋で修繕が必要と判定されていますが、全体の約6~7割程度の橋では、まだ修繕が終わっておらず、国土交通省の試算によると、今後も毎年約5,000か所の橋が、新たに修繕が必要とされる可能性が高いとされ、現状で必要とされる橋の修繕を終えるのに20年以上かかるとされています。
限られた予算の中で、人流データなどを通じて現状を正しく把握し、優先順位を付けた効率的な対応が、これまで以上に求められることは言うまでもありません。
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、米国・Replica社による橋の重要度を評価するデータベースについてご紹介しました。
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