見出し画像

【画廊探訪 No.053】息をこらえて、深きへと潜って ―――赤門塾 大友洋司絵画展に寄せて―――

息をこらえて、深きへと潜って
―――赤門塾 さつき祭企画展 大友洋司絵画展に寄せて―――
襾漫敏彦

長谷川宏氏は、“ことば”を人が交わしあう様を、おろそかにしなかった人である。彼がはじめた赤門塾で、絵画の個展があると聞き訪ねていった。普段は子供たちでにぎあうホールは、素の空間となって、大きめの作品が数枚展示されていた。それは、見る者の体で解ける色の記憶である。

 大友洋司氏は油彩の画家である。彼は具材を薄く油に伸ばして、それを使って大型の画布にひろげていく。青、黄、赤という原色に近い色を何層にも何層にも重ねあわせる。そして幾重にも重ねられて、深さと距離が隠された単一なグラディエーションとして現れる。けれども、色の水面の向こうには、海に潜るように、深みに応じて感じた色を構成した作家の系譜がうねっている。

 表現は、人間の身体(からだ)という限定された存在を通してなされる。それ故に、時代や場所の大気を吸い込んでは、吐き出される息づかいのようなところがある。だからこそ、この一枚の絵の中には、大友洋司氏のその折ごとの身体の記憶が積み重ねられている。そして、それがこの絵の身体性なのである。

 ことばは、相向かうつきあいの中で育まれ、人を前にした語らいの中で豊かになる。足りないものを口調や身振り、器や道具で補っていく。そして使われたことばの記憶は身体(からだ)に記録され沈んでいく。

 身体に重ねられた彼の記憶が海の深さによって分解されてもう一度重ねられた大友氏の絵は、僕等の身体の記憶を一度、揺さぶり、そして少し深いところへと沈めてまとめていく。

いいなと思ったら応援しよう!