【画廊探訪 No.018】土塊の前に一輪そえて ――吉原航平氏作品に寄せて―――
土塊の前に一輪そえて
―――「ULTRA005」Oct.Side出展 吉原航平氏作品に寄せて――――
襾漫敏彦
鎌倉というのは、歴史の中で、時に輝きながらも、静かに寝ているようなところがある。時代を前へと進めながら、不思議と過去を捨てない所である。緑にかこまれた東慶寺を思い返しながら、彼の作品を見ていた。
吉原航平氏、彼は、和紙の上に、ペン、墨をつかって線画のように描きぬく。その線は、いまだ着色と描線の間を彷徨している所もあるのであろう。表現せんとするモチーフは、印象としては、地中から掘り出された遺物、流れついた流木、古い倉から見出された起源もわからぬ面。人の生活と共にありし昔は、飾り立てたであろう。花や葉、鳥の羽根、動物の毛、色彩。そういうものを振ひ落としても残るものを求めているのだろうか。それは、緑に抱かれながらも、古い建築や墓のたたずまいに、おのずと目がいく鎌倉の風情に近い。
生活と共にある祭祀、宗教は、新緑の如く瑞々しく、深緑の如く奥ゆきがあり、紅葉の如く艶やかであり、魅力的である。しかし、それ故にこそ、その美しさは欲望や愛着といった人間の関心がすべりこんでいる。吉原氏は、そういう表層をとり去った、神を畏怖する心の根元を自分の胎内に探ろうとしているのであろう。
和紙の上で、手を施していない空間がある。そこを追いかけると、奇妙な感覚におそわれる。古木を凝視しながら、まだ、ふと緑に心を奪われる。そのゆらぎが、着色や描線の中に表れているのだろう。しかし、その間で、苦しみ悩む事、それこそが、絶対者を前にした時の人間の有様ともいえよう。残された空白の中にも、もう一人の彼の意識を感じさせる。
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吉原さんは鎌倉出身の方です。かつて原宿のSPIRALで<Plus Ultra>というアートフェアがあって、その五回目のときにおあいしました。
いまでも独創的に活動されているようです。公式サイトは確証が持てないので探してみてください。