【画廊探訪 No.043】記憶の中の陰影を礼讃して ―――芹澤マルガリータ―――
記憶の中の陰影を礼讃して
―――芹澤マルガリータ ―――
襾漫敏彦
法隆寺の柱は、エンタシスという形式の柱である。これは、柱の中央に膨らみをもたせることで、高く見せる技法であり、遠くギリシャ・ローマの神殿の柱に通じるらしい。
芹澤マルガリータ氏は、ロシアの青年を父とし、日本の娘を母とする日本画家である。幼き頃までは、北寒の父の祖国の地に育ち、家族で日本に移り住んだ。彼女は岩絵具の質感に魅せられて日本画を学ぶ。
彼女は、光が与える色を、輝きの乏しい石の顔料を使って、分け散らせて描くことで、画布の手前に色彩の空間の拡がりを構築する。それは、ひとつのタペストリーでもあり、イコンでもあり、光をひきいれる窓でもある。
そして、彼女の描く建造物は、丁寧に視線でさすっていくと、やや弯曲しているのである。それは、空間を大胆に歪める表現である。アーチには、その奥行きを、橋には、川の広がりを、そして建物の中では、聳えたつ荘厳さを見事に表現している。
凍える大地の閉ざされた石の教会の空間の記憶と、軟らかい光の記憶が、岩絵具の輝きの乏しさの中で結びつけられ再現されているのであろうか。そして、画の側面に施されたストライプの装飾や、丁寧な額装に、マトリュオーシカを創りだした民族にとって、完成させるとはどういうことかという感性の息づかいを感じた。
法隆寺の主、聖徳太子は、秦氏をはじめとして、帰化人と縁の深い人であった。彼等は、遙か西方の文物を伝えた。文物の中に息づく多くの大地の人間性、それを受け容れ、交わりながら、このクニは、深みと厚みを養っていった筈である。
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芹澤マルガリータさんには、日本とロシアのそれぞれの美への意識のふたつの流れが渾然一体となっているようです。
芹澤さんのサイトです。
10月にはギャラリー羅針盤で、個展もあるようです。