ほんのしょうかい:『移民政策とは何か』〈『思想の科学研究会 年報 最初の一滴』より〉
「思想の科学研究会 年報」では、第二号の「最初の一滴」より、[ほんのしょうかい]というコーナを立てて、サークルなどで扱った本の紹介を始めました。
高谷幸編・奥貫妃文等著『移民政策とは何か』(人文書院)
(2019年「特定秘密保護法を考える会」の課題)
2019 年より特定技能による外国人労働者の受け入れの制度が始まった。このことは、「移民元年」や、「日本で始まる移民受け入れ」という言葉で受け止められ、大きな政策転換としてとらえられてきた。その一方で、当時の安倍内閣は、「移民政策はとらない」と主張してきた。一見、矛盾におもえるが、日本の経済活動の維持のために「外国人材」は受け入れるものの、定住化は阻止しようということである。さらに、議論を避けるためか、制度の開始が2019年4月からであるのに、変更のためのタスクフォースは、2018年2月からという慌ただしいものであった。
外国人の定住化阻止と、今後の問題点を考えるにあたって、定住化の阻止を貫いてきた政策が何をもたらしてきたのか、そして慌ただしい制度改定に隠されている問題とはなにか。
過去の日本と海外における移民の経験を振り返ることを通じて、このことを検討しようとしたのが、この一冊である。2018年政府内でタスクフォースが立ち上げられてから一年未満という短い時間にもかかわらず、「労働」、「ジェンダー」、「出入国在留管理」、「社会保障」、「教育」、「多文化共生」、「移民排斥」、「反差別」、「国籍・シティズンシップ」、「技能」と十にわかれた項目を九人の研究者が、丁寧に検討し報告している。
私は、これまで、編著というものは、あまり好んで読んではいなかった。それは、誰かと対話しながら、自分を問うという対話的な経験でなく、どこか輪に入れないまま、おしゃべりを聞かされている感じがあったからかもしれない。
新型コロナウイルスの流行で気がついたことがある。あるひとつの出来事は、おなじようには見えないということ、それぞれに体験や見え方が違うということである。時が経てば、なんらかの形で一つの出来事としてまとめられてしまう。だからこそ、いまとここの体験はかけがえのない経験なのだ。 早い段階での印象を書き残しておくことは、大切なことで、折りにふれ、そこに戻ることができる。特定技能による外国人労働者の受け入れ制度開始直前に出版されたこの一冊は、次の一歩のため大切な足場であり、時が経つにつれて、我々の見立ての不確かさや、甘さがはっきりしてくる預言書になるようにも思える。(本間)
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今、ウクライナからの受け入れも始まっていますが、そとからひとを受け入れることに関して、かなり無知であることを、あらためて考え直さないとならないと思います。
軍事でのみの防衛と、外交と社会防衛はことなることをあらためて考えるきっかけに、この一冊が、貴方にとってなれば幸いです。
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