【画廊探訪 No.160】双樹の大地で語らうあなたとわたし――岡本直浩個展『桃と樟―momo & kusu―』に寄せて―――
双樹の大地で語らうあなたとわたし
――岡本直浩個展『桃と樟――momo & kusu――』(ギャラリーマルヒ) に寄せて―――
襾漫敏彦
僕等は、何かと出会う前に、抱かれるように育まれてある。自分が確かであるように思うものの、どこまでがわたしで、どこからがあなたなのか、曖昧である。誰かを育もうとしたとき、わたしは交わり、与える。そして気づくと多くのものをもらっている。育むとき、育まれていく。そして育むことをあらためて知る。
岡本直浩は、甲州の地で、農家として桃を育てながら、木と語るように作品を制作する木彫り作家である。岡本は、大樹の枝をわけいっては、木立の中を歩くように作品を表す。きらめく陽射しをうける新緑の葉を触れるように彫り出しては、幹に手をあてて感じる受肉した大樹の精神を、その中に写し出していく。
木漏れ日を受けては樹木と語らいあう時が満ちる空間のように、幹と枝葉の間に抜き彫りにされた間隙に、涼しげな風が吹くようでもある。
美術は、物を用いて、イメージを模写していくものである。彫刻において、木も、当然ひとつの素材でしかない。けれども、本邦においては、特殊な方向へと進んでいく。
木は彩色される彫刻の骨組みであるところから、形そのものを表すものとなり、彩色すら忌避するようにもなった。そして木の中にある魂や精神というものすら彫り出そうとしていく。それは、双樹の国の信仰のひとつのあらわれかもしれない。
岡本は、木の中の魂を彫り出すのではなく造形の間の形をなさぬ空洞の中に木とひとの触れ合いを彫り出していく。それは、想像の対象としてでなく、語らいつながりあって支えあう実在としての、貴方と私の表現。これも、ひとつの信仰のあらわれだろう。
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岡本直浩さんの公式のサイトは見当たりませんが、ネット上で紹介の記事など、豊富に見つかりますので、自分で当たってみてください。