#9 人の心をとらえるキーワード
え、何?
今度のプレゼン、おーっと言ってもらえるようなのにしたいって?
わかんないけどさ、そこはオマージュなんじゃない?
つまり、聞く人たちが知ってる古典、過去のアーティストのやった作品から発想してみるってことさ。
例えばさ、こないだ話した松尾芭蕉の奥の細道があるだろ。
東北、岩手県、奥州と呼ばれ、義経の最期となった場所。
そこで、芭蕉は次の五七五を詠んだ。
■ 夏草や兵どもが夢の跡
芭蕉は当時新しい表現のカタチ、五七五で作ったって話はしたな。
(「人々がみんな立ち去っても私」https://note.com/20212015/n/ndcd6cad0ea52)
でもさ、「夏草」ってキーワードってどう決まったんだろう。
ただ、偶然、目の前に草があったって話かな?
偶然じゃなかったりする。
すぐれたクリエーターって必然的に言葉を選ぶんだ。
「夏草や」のあとに、芭蕉に同行していた弟子の曾良がこう詠う。
■ 卯の花に兼房見ゆる白髪かな
「卯の花」は確かに夏の季語だよ。
でも、たまたま偶然、「夏草」のある場所に「卯の花」があったのかな。
いいプレゼン、作品を作ろうとするなら、こうした、さらっと書いてある言葉、キーワードに何か理由があるのではないかって考えることって大事なんだよ。
そこにいいプレゼンのヒントがある。
さて、なぜ「夏草」で、なぜ「卯の花」なのかな。
本当のところは芭蕉に聞かないとわからない。
でも、状況証拠として、あ、これは・・・っていうのはある。
源平合戦で平安時代が終わって、鎌倉時代になり、作られた勅撰歌集が「新古今和歌集」。
その「夏歌」という和歌の並びに、出てくるんだよ。
■ 夏草は茂りにけりなたまぼこの道行く人もむすぶばかりに
■ 夏草は茂りにけれどほととぎすなどわがやどに一聲もせぬ
夏草が茂ることは、夏が盛んになるという意味で、新古今では詠われた。
芭蕉は、そのオマージュとして、正反対で使って見せる。
かつての奥州藤原氏や義経の栄華の跡がないことを、「夏草や」と始めるわけだ。
それを聞いた、弟子の曾良は何を言うか。
ここは、その、新古今の「夏歌」から題材をとって、師匠の句に乗っかっていくべきでしょう。
新古今、夏歌にこれがあるんだ。
■ 卯の花のかきねならねど時鳥(ほととぎす)月のかつらのかげになくなり
意味としては、卯の花が白い花なんで、夜でも明かりがあるように照らす、そんな卯の花の垣根ではないが、月夜に照らされる桂の木の照らす場所でほととぎすは鳴くんだ、という意味。
夜にほととぎすが鳴いているおしゃれな歌だ。
で、それをオマージュして、曾良は、卯の花の白さを、おしゃれにではなく、こっけいさとして表現する。
つまり、義経が自害する直前まで一緒に戦っていた老臣兼房の白髪を卯の花の白さにたとえるわけだ。
芭蕉一門がもともとやっていたのは、俳諧=くすっと笑う、こっけいな感じの表現だった。
曾良は弟子として、師匠と同じ新古今からキーワード「卯の花」を取り出した。
おしゃれな過去の作品を、芭蕉一門流にこっけいな感じにしつつ、義経伝説を「夏草や」と表現する師匠に継いで、「卯の花に」とやるわけだ。
「夏草や」と「卯の花に」は、偶然ではなく、必然的な言葉のチョイスをしてるってことなんだ。
・・・
だんだんわかってきたか。
本当におおーって言うプレゼンにしたかったら、聞いている上司たちが知っている過去の作品なり出来事なりを見つけてみることなんだ。
で、それを下敷きにして、必然となるキーワードをチョイスしていく。
その構造をもとに、新しい提案をしてみるんだ。
確かに難しいが、いいプレゼンねらうのだったら、しっかり古典を調べ上げることだろうな。
企画のアイディアだけではだめ。そこに、おーそうそう!という共感があるといい。
そうそう、バンド名なんかも、何にもないところから作るのもあるけど、自分たちが好きな曲の言葉からとるなんてのもあるな。
ローリングストーンズ知ってるか?
「Start Me Up」https://www.youtube.com/watch?v=RwflBsywfMg
このローリングストーンってのは、結成前にバンマスのブライアン・ジョーンズが好きだったマディ・ウォーターズの「ローリングストーン」からとったんだ。
「ライヴ・シカゴ1981 / マディ・ウォーターズ&ザ・ローリング・ストーンズ」
https://www.youtube.com/watch?v=FCvp_3fAjFY
この歌詞も意味深なんだが、まあ、それはまたそのうち。
ローリングストーンズは、この「ローリングストーン」というキーワードで、自分たちの楽曲を位置づけて行ったわけ。
体制に背を向ける、自由を謳歌する音楽、という位置づけ。
難しいさ。
でも、お前は、プレゼンで人の心をとらえたいんだろう?
だったら、自分が言おうとしていることの全体像を表すキーワードを古典から探してみなよ。
まあ、今夜は一杯やって、明日から探してみな。
イギリスのジントニックなんかどうだ?
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