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とろろ昆布ダイエット

朝バナナダイエットを未だに続けている人はいるのだろうか。いたとしたらきっと示準化石、なんてあだ名をつけられているんじゃないだろうか。いや、まぁ知らんけど。

朝バナナダイエットのような、○○ダイエットというやつは、毎年毎年新しいものが発明される。朝バナナダイエットが流行ったと思えば彗星の如く過ぎ去って、あっという間に夜トマトダイエットが一世を風靡した。再び日の目を見る○○ダイエットもたまにはあるが、どれも一回のブームは1年続くかどうか、1年も経たないうちに闇に葬られてしまう、というところだ。

ただ一つ、とろろ昆布ダイエットを除いては。


とろろ昆布は流行り出してかれこれ2年が経つが、下火になることを知らない。
○○ダイエットの○○にあやかってビジネスをすると失敗するから手を出すな、という暗黙の了解をも覆した。


とろろ昆布ビジネスはバズりにバズった。スーパーのとろろ昆布売り場は拡張され、コンビニにもとろろ昆布が大量に置かれ、おにぎりに巻かれていた海苔は完全にとろろ昆布に取って代わられた。

たくさんの商品開発の裏には莫大な時間をかけられた研究が隠れている。ニュースでは、毎週のようにとろろ昆布の驚くべき新しい効果が報じられている。

ついに、某りんご社もたまげるような開発がされた。

『とろろイヤホン』の登場だ。

どういう仕組みなのかは詳しくはわからないが、特殊な電気を通す成分が発見されて、専用のとろろ昆布を専用の耳栓と手持ちのスマホや音楽機器と接続して音楽が聴けるようになったらしい。

俄かには信じがたいと思うのだが、これが本当で、みんなとろろイヤホンを使っている。
某りんご社の某ぽっずが出た時に、みんなうどんみたいだと嘲笑っていたのに、電車に乗っている人の多くは当然のように耳からうどんを垂らすようになった。
みんな調子がいいもんだ。
とろろイヤホンも例の如く、みんな当然のような顔でつけている。

発売された当初はみんなうどんの時より嘲笑っていた。嘲るよりも見てはいけないものを見てしまったかのような顔をしていた。でも今やみんな耳からとろろをぶら下げている。

不思議な世の中になったものだ。

驚くべきことに、音質がいいらしい。こちらも信じがたいのだが、発見された電気を通す成分がかなり優れものらしくて、かなりの高音質に仕上がっているらしい。

みんな耳からとろろをぶら下げて電車に揺られている光景は異様であるが、もはや日常の光景になりつつある。耳からぶら下げたとろろで音楽を楽しみ、自分が降りる駅になると、耳からイヤホンを外し、むしゃむしゃととろろを頬張る。さも当たり前かのように。

次に降りそうな人の前で席が空くのを待つ、なんてことは無くなって、むしゃむしゃととろろを口に頬張っている人を見つけてはその後の席を狙うのだ。これが便利なのかはわからないが。

電車はすっかりとろろ昆布臭くなってしまったが、それもみんな慣れっこだ。


とろろイヤホンは、片耳だけのイヤホンやカバンの中でぐちゃぐちゃに絡まったイヤホンを世の中から消し去った。


とろろ昆布ダイエットが流行り出して2年半。耳から垂れ下がるものはうどんではなくとろろだし、おにぎりに巻かれるのは海苔ではなくまだとろろ昆布のままだ。
いつになったらこのとろろ昆布の火はおさまるのだろうか。

とろろ昆布の席巻は凄まじいものだ。








いつになったら気づくのだろう。





3年前から誰も痩せていない。

毎日投稿続けています。その中に少しでも心に届く言葉があれば幸いです。