[画集]藤ちょこさんの画集2冊を読んでみた[雑感]
はじめに
イラストレーターの藤ちょこさんの画集を読んでみました。普段は写真をいじっている人間なので、絵の見方はあまり詳しくないという事だけ先に書いておきたいと思います。
まず画集の概要を簡単に。今回は2冊の画集を刊行順に拝読しました。1冊目「極彩少女世界」は2014年刊行。収録作品は2010年頃からの作品が多いようです(制作年の記載が無い作品もある為)。目を引く赤い表紙が特徴です。もう1冊、「彩幻境」は2020年刊行。大雑把に1冊目が刊行されて以降の作品が主になります。同名異字の個展が開催される予定(コロナ都合で先送り中→10/29更新:2020年10月31日~12月6日開催決定、詳細→ http://gofa.co.jp/exhibition/藤ちょこ画集発売記念作品展「彩幻境」/ )でもあり、図録としての側面もあると考えた方が良さそうです。1冊目とは対照的に鮮やかな青が表紙の本になっています。出版社が異なり、紙質や製本、印刷の感じもすこし違いがあります。これは予算の都合なども絡んでくるでしょうけれど。
画集の中で作者本人も述べていますが、時期によって作品制作の方法なども少しずつ違いがあります。技術的、ツール的な面での向上だったり、作者の考え方も違いもあるでしょうから、この辺りはとても良い事だと思います。
作品そのものに関する講評が出来るほど絵についての学や技術がある訳では無いので、作品全般について思うこと、3つの項目で書かせて頂こうと思います。
1.色彩
書名に「彩」の文字が含まれている通り、非常に豊かな色で描かれている作品が多いです。ただ、一口に色彩と言っても、色の濃度なのか、彩度なのか、濁りなのかで意味合いが変わってくる部分もあります。
全体的な印象として、濃度そのものは控えめな感じを受けます。彩度そのものはそれなりに高いですが、強烈な色味で殴りかかってくる感じは受けないので、観る側としては爽やかで素直に受け止められる感じです。
濁りは若干クセがある感じを受けます。空気的な立体感の表現としての役割がある部分はあるのですが、ちょっと強すぎる感じ。人肌や衣装の色味はすごく自然ではあるのですが、金属・ガラスなどの光沢感にはすこし柔らかすぎな感じがします(発光・透過光の表現とは別です)。
掲載されている極初期の作品を観ると、かなりパッキリと色分けされていたので、そこから現在に至るまで少しずつ柔らかく立体感を作り上げている感じを受けました。
画材がアナログからデジタルに変わったり、透過原稿か反射原稿かで彩度や濁り具合が変わるので、単純な好みの変化というだけでは無いと思います。
2.陰影
濃淡の話ではなく、立体感に関わる部分です。その実、絵の中の立体感を作り出すのは細密な線の描き込みでは無く、シャドウの陰影がどれだけ効果的に縁取られているかによってくると思っています。細密描写はそれはそれで観るべきものはあると思うので好きですが、それだけだと俯瞰してみればただの黒い線のダマになってしまうので。
ただ、無駄な細密描写はないですが、必要な細かい部分の作り込みがとてもしっかりされています。「彩幻境」p040-041「神饌神輿」やp046-047「Welcoming All Wonders」の透過光に浮かぶ帯の紋様などで、これがあるか無いかで設定の説得力が大きく変わってきます。その辺りも観る上での大きなポイントになると思います。
掲載されている作品の殆どは人物を描いたものです。ポージングや装飾品によってい条件が変わる部分にはなりますが、全体的に影を使った表現はあまり強くはありません。色の濃度による縁取りと変化は施されていますが、それより強い濃度表現はあまり使われてはいないようです。更に背景も含んだ場合だとその傾向が強まってしまう部分があって、なんとなく奥行き感が乏しく感じてしまう部分がありました。
実在する立体物に目を向けると、素材の節目や立体の辺には輪郭線がありますが、同一パーツ上にそれ以外の輪郭線は殆どありません。実在するものはむしろ線が少なく、陰影によって実在感が形成されています。その意味では必要な輪郭線以外を省略して、いかにシンプルな線と陰影でモチーフを描くか、というのも大きな技術と言えます。
とはいえその表現技術が拙い訳ではなく、しっかりとあるのは解るので、あえて使わずに作風として成立させている事も理解できます。印刷サイズは小さめですが、ライブペイントなどで作成された作品や「極彩少女世界」最後の「お絵かき娘の夏」右上の貝殻と鉛筆の絵などはかなりリアル目な奥行き感で描かれています。特に「彩幻境」p030の「花灯恋慕」の前景、後景つながりや、チャイナドレスの刺繍の立体感などは素敵です。それでも画集として連続で絵を見ていくと気になってしまう部分ではありました。
3.構成
構図作りは非常に大切です。主題と背景のバランス、それらをどこに配置するのかで受ける印象は大きく異なってきます。また、どこまで嘘を作れるのかという絵画ならではの難しさもあります。
人間の本来的な視覚に基く場合、人物の大きさをそれなりの大きさにすると背景描写は殆ど出来なくなります。逆に、広角レンズをつけた写真などの場合、人間を手前に入れた上で背景も写し込むと人物に歪みが出たり、遠近感が誇張されすぎたりします。人間が手で描く事でそれらを無視出来るのが、絵画的な嘘です。
解りやすいところで言えば、魚眼レンズ風な歪みのある見上げた背景に、真っ直ぐ立つ建物や人物だったり。各モチーフで遠近法の消失点がズラされているような場合です。
また、作品として成立させる外枠の形が自由なのも絵画作品の特徴であると言えます。たとえば「極彩少女世界」p120の「2012年謹賀新年」のように円形+αの形式だったり、縦横比が自由に設定出来る点。また、動画などの素材として使われるキャラクターの立ち絵などはそもそのその形が外枠になっています。
個人的に好きだったのはライブペイントなどのモチーフが少ない作品でした。構図の中で「このキャラクターのこの部分を見せたい」というところが伝わりやすく、納まりの良い構図を作りやすいというのが大きな理由だと思います。逆に引いた構図の場合、背景の描き込みに目を取られやすく、主題の人物が埋まってしまう感じを受けた部分があります。背景が主題であればそれも良いのですが。
引いた構図よりも安定して良いと思ったのは、手前を切り詰めた中景・遠景で作られた作品でした。「彩幻境」のp026「白昼月下狐仙図」やp016-017「水簾の街」などです。主題と背景のバランスはこのくらいが丁度良い感じを受けました。
おわりに
おおまかに書いていくとこんな感じでしょうか。
日本語が下手なので伝わりづらいとは思いますが。
作者コメントを読んでみると、やはり時代の流れの速さや制作期間の短さなどが少し触れられていて、情報化社会の面倒さをなんとなく思ったりもしましたが。
「極彩少女世界」も「彩幻境」もじっくり観られる見応えある作品で、買って損は全然無い作品集でした。
画面内でとても素敵な配色をされているので、写真を撮る上でもどこまで色を乗せるのかという教科書にもなります。
流れの早い時代の中、続けていただけていることに感謝をしたり。
これからも続けて素敵な作品を拝見できたら嬉しく思ったり。
もし目に入って気分を害されたら申し訳ない限りなのですが、こうして書きたいと思わされたくらい素敵な作品たちでした。
追記
なんだか黒の使い方に不安があるとコメントされてたので、こういうものを見たら参考になるのではというものを無責任に置いておきます。
エドワード・スタイケン「モダン・エイジの光と影」「写真集成」
1920年代のファッション写真家。黒の表現の柔らかさが良く解ります。
ブラッサイ「夜のパリ」「ブラッサイ・イン・アメリカ」
石畳や街灯、風俗の雰囲気と、闇の中の光の拡散具合が美しいです。
丸田祥三「棄景」シリーズ1〜3
パンチの効いた黒白写真。こんなのもあるのか、という観点から。
戦後すぐくらいまでの黒白プリントはグラデーションのつながりも良く、空気遠近法的なぼかしと、光の拡散が綺麗で、黒のバリエーションを知るにはとても大きな資料になると思います。また、紙白と描画色の白の限界値の違いなども面白いと思います。