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大切にされた、感触。
17歳だった。
女子高生だった。人数のいない陸上部、友だちと戯れあって、土日は昼過ぎまで寝て。
17歳だった。
弟妹たちの心配をしていた。両親のいる家の中に安心がなかった。早く大人になりたいと願っていた。
風の中に溶けるようにさらさらと、指先から流れるように消えてしまいたい。
同時に、いつだって明日が来ることを信じていた。
17歳だった。
多分、その日が限界で。
馬鹿みたいに晴れ渡った美しい朝、
私は初めて、熱がないのに学校を休んで部屋に閉じ籠り。
そんなことで私の欲しい明日が来ないことは、やっぱりわかり切ったことだった。
翌日、一限目が始まり、静まり返った校舎内。
大きなバックに学用品全部詰め込んだ私を見て、先生は目を見開いていたっけ。
名前を呼ばれただけで私は泣き崩れ、
そうやって、暫く泣いてすらいない自分に気付いていた。
彼女は私を教室ではなく自分の教科室に連れて行き、心配そうな顔で話を聴き。
それから、
私は、どんな表情で、どんなことを言えば、周りの大人が安心するか、分かり過ぎていた。
17歳だった。
先生に約束したのに、その日私は家に帰らず。
突然泊まりに来た娘の友人に、
好きだったよね、前来た時、美味しいってたくさん食べてくれたから
そう言ってお母さんが出してくれたクリームシチューを
ここ2日、何も通さなかった喉に流し込んだ。
17歳だった。
それから私は、
自分の為にたたかうことを選んで家に帰りそして、
笑える位に玉砕した。
子どもでは、どうにもならないことを知っていた。
大人でも、どうにもできないことが沢山あるのだと知った。
あと、世の中はドラマと違ってハッピーエンドばかりでないことに、なんだか心底落胆し、
それでもやはり、明日が来ることを知った。
それから
本当にたくさんのことがあって、その度に私を踏みとどまらせてくれるのは
出会った大人たちが与えてくれたもの、それぞれの立場で、それぞれのできるところで、それぞれの範囲で、大切にしてくれた感触。
それはきっと、あの人たちにとっては特別なことでもなんでもなく、普通のこと。
そして、私が求めていたことも、普通の日々だった。
そして、明日が、絶望的に繰り返しながら
少しずつ、たくさんの「大切にしてくれた感触」が、「大切にしたい感触」に変わっていった。
37歳になった。
誰しもが、愛し愛されたいと、心の底で望みながら、不器用に傷つき傷つけながら生きていることを知った。
普通のことを、普通の顔で、普通に重ねることが、本当は何よりも難しい。
今日もたくさんの人生が交わる此処で、儘ならない只中に在る人々の傍に佇む。
時折り繰り返す嵐に、細いピンヒールで踏みとどまりながら。
確かに私は、この人間、という生き物を、愛しているようだ。