ARM, Instacart, Kraviyo:1週間で3件!巨大テックIPOから見る市場感考察
立て続けに米国テック大型IPOが出てきたので、続報として書いています。基本的な「臆病なIPO市場の夜明け」に関する考え方は、先のリンク記事に書いたことから変化ありません。まずはこちらの投稿(下リンク)を是非ご一読ください。
今回の投稿内容のアップデートは以下の3社のIPOのその後についてです。
ARM(半導体設計)、Instacart(EC)、Kraviyo(MA:マーケティングオートメーション)
結論として太陽は水平線から顔を出した、夜明けが始まったと言えるかと思います。厳密には、本格的な夜明けに向けてに前提条件が一つ満たされたと言って良いかと思います。詳細は本文最後にて整理したいと思います。
その①:ARM⇆大型IPOサイズの壁
仮条件レンジが$47-51で設定されていました。一時、レンジを上回る$52での条件決定がWSJで報道されましたが、結局レンジ上限の$51で条件決定されました。
初値は24.68%上昇し、$56.1をつけ、終値では$63.59。翌日一時$70まで迫るなど、堅調な市場デビューを果たし、市場関係者を安心させました。ただ、その後は株式市場全体が軟調であり、株価が下落していますが、それでも公開価格$51は上回る水準で推移しています。
最も重視すべきは、オファリングサイズです。$5.23bn(約7,700億円)という今
年最大規模のIPOの需要を見事に投資家が吸収し切ったとこと、その後のアフターマーケットを見ても、その事実を確認できたということです。これにより、IPOやテックIPOの規模に対する恐怖心は一定晴れるきっかけとなったと思います。
なお、ARMは黒字化を何期も前から達成している黒字成長企業です。ソフトバンクが買収して、その後の上場ですので、一般的なスタートアップ系のテックIPOとは異なる点は付言しておきます。
その②:Instacart⇆グロース高バリュエーション
規模の観点ではARMよりも小型ではありますが、それでも$660mn(約980億円)と今年最大級のIPOです。ARMと異なり、いわゆるVCからの資金調達により成長を続けてきた企業です。想定時価総額も$9bn超と1兆円を超える水準になります。
仮条件は$26-28からスタートし、その後$28-30に切り上げています。その判断にもARMの堅調な市場デビュー(先週金曜日時点で大きくARM株価は上昇しており、堅調なアフターマーケットが確認されていた)をしたことが影響したとされています。そして、一時$31以上の噂も出ましたが、ARMにおける孫さんの判断と同様に最終的には修正後レンジの上限である$30で条件決定しています。
ここでも同じく、慎重な仮条件設定ではあったと思いますが、条件レンジを引き上げつつ、最終的に上限値での条件決定を成功させているということです。そして、直近のARMのIPOの成功が全体のセンチメントに大きな影響を与えているということです。当方の先の記事で触れた通り「臆病な投資家」は疑い深く、少しずつ事実を確認してからでした大きくリスクオンに切り替えたりしないのです。投資家はギャンブラーではなく、臆病で慎重なのです。
一時$40にタッチし、その後終値としては$33.7で着地し、公開価格比12.3%でリターンをもたらしました。
その後は市場軟化により株価は下落傾向ですが、公開価格の水準で株価は安定した状況にあります。
S-1の解説は色々出てますが、例えば以下のリンクなどご参照ください。
ARMほど既に財務モデルとビジネスモデルが証明され切っているわけではないですが、こちらも成長スタートアップとは言え、高い粗利率(72%から直近四半期では75%まで改善)、営業黒字/当期黒字を前期(N-1)で達成しており、直近四半期で営業利益率18%を叩き出しており、高成長と高収益の両方を投資家にアピールできる状況でのIPOということになります。
その③:Kraviyo⇆赤字上場の境目
そしてこの1週間の最後を飾ったのがKraviyoです。本日上場日でアフターマケットが注目されていましたが、無事着地したことが確認できました。サイズは$570mn程度になり、前の2件より若干小ぶりではありますが、時価総額はInstacartと同程度の$9bn超となります。
当初の仮条件は$25-27、Instacart同様に今週月曜日に仮条件レンジを$27-29に引き上げています。ARMの状況を踏まえての判断であると想定されます。
公開価格は仮条件レンジの上限を上回る$30で決定されています。これはARMやInstacartでは見られなかったことです。それだけ投資家の需要が高かったのだと思いますし、ARMやInstacartのアフターマーケットを見て、主幹事証券も強気になった面もあるかと思います。
初値は$36.75(23%アップ)で終値も公開価格を上回る水準で推移しています。明日以降の推移はまだ不明ですが、大凡無難な船出ができたという評価になるのではないでしょうか。
KraviyoはInstacartよりもさらに成長性を重視したストーリーでIPOを行っています。
通期ではまだ黒字化を実現しておらず、四半期(半期)での黒字化を実現したタイミングでIPOをしています。実際はどうかわかりませんが、各コスト項目を見てみると、若干S&M(販売費用)を抑えた可能性もあるかと思います。売上対比が昨年度最も改善されており、これが黒字化の要因にも見えます。それだけ、黒字化を見せることがIPOの成功に重要だという判断もあったということが伺えます。
3IPOを通した目下の現状認識まとめ
さて、いかがでしたでしょうか。
改めて、3件の連続した巨大テックIPOが、恐る恐る、一方で無難に消化されていったことがわかります。どれだけ、この順番を意識したかはわかりませんが、結果的には良い感じで段階を踏んで、市場のセンチメントをテストすることができたように思います。
まず、最も大規模ではあるが、黒字でビジネスが完成されているARM社により、リスクが高く敬遠されていたIPO市場を実質的にRe-Openさせました。仮条件の上限で決定し、アフターマーケットが堅調であったことが、その後の2件にモメンタムを与えたと思います。
そして、続くはInstacart。純粋たるスタートアップIPOになります。ポストIPOスタートアップの上場後のパフォーマンスは厳しく、投資家の投資優先度が下がっていました。未上場でもダウンランドが相次いでいます。そんな中、ユニコーン企業で有名な企業であり、前期でしっかり黒字化を実現したInstacartのIPOは最も適した無難な候補企業だと思います。
保守的な仮条件レンジから一度条件を切り上げ、その上で上限で決定できたことが、IPOプロセスと投資家の自信が徐々に回復していることを確認させます。
その上で、Kraviyoの条件交渉です。前期が赤字であったため、N-1期という観点では赤字上場に該当します。ただ、四半期で黒字化を見せて、来期以降の収益化のストーリーが語れるタイミングです。赤字か黒字化の境目をテストする意味で、適した候補企業だったと思います。
結果的には、仮条件を引き上げ、さらには引き上げた上限以上の価格で条件決定することができました。
IPO市場は夜明けを迎えた
いよいよ、本格的にIPO市場の夜明けだと思います。ただ、留意すべき点は3点あります。
1)超有望企業であったこと(会社の質、魅力、規模が至らないと厳しい可能性)
2)赤字企業に対してはまだ留意が必要
3)日本企業ではないこと
もう太陽は水平線から顔を出してきたと思います。少なくとも臆病な投資家の意識は少し変化してきているものと思われます。心配なのは、金利動向を含めたマクロ環境ですが、スタートアップやテックIPOに対する臆病さは少し緩和したように思います。
同じようなプロセスや経験を日本市場や日本企業に対しても、これからやっていく必要があります。同様な優良企業のIPOにより、オファリングサイズ、収益性、流動性といった条件を少しずつクリアしながら、日本スタートアップIPOのモメンタムを再構築していく必要があると思います。
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