「ジョン・ウィリアムズは技だけで作っているからぼくは好かない」(その3)
タイトルと内容がどんどんかけ離れていくことなぞ気にしない気にしない、前回からの続きです。
30秒のCM用に書き下ろされた曲とはいうものの、後にもっと書き足されて一曲になったものを聴いても、以下の6小節から展開していかないのです。
「エナジーフロー」も、この曲と同じで30秒のCM用に書き下ろされたものでしたが後に書き足されたものを聴くと、起承転結で曲が進み、一周してゴールインとなるような作りになっていました。一方この「フローティングアロング」は、どう工夫してもそういう風には、どういうわけか展開しないのです。
どうしてなんだろう…分析すれば何かつかめるかもしれない。
前回指摘したように、この旋律(赤でドレミ表記)は東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」を5度上に置いて「ソ・ラ・シ・レ・ミ」にしたものです。
この技は彼のほかの楽曲にも通底する技です。通底するのだけど、そうだとわからないように使っています。例えば「シ」を鳴らすときは和音で「ミ・ソ・シ」を鳴らして、「この『シ』はあくまで和音の構成音だから音階『ラ・ド・レ・ミ・ソ』から逸脱していても理論的にはアリだよーん」と開き直るようなことをなさるのが常です。
ところがこの楽譜を見ると、「シ」が旋律で鳴っているのに、和音でそれを正当化してこないのですよ。
つまりいきなり「おやぁ、ここで『シ』の音からはじまってるね、へんだよね、みんなどうしてかわかるかなぁ?」とよゐこの私たちに謎かけしてくるのです。
次の小節でも、旋律「シ」で謎かけを仕掛けてきます。
ここの和音が「ファ・ファ」(青色)ですよね。ということは「ファ」と「シ」で増四度音程が生じています。「シ」の謎を、こういう不吉な音程でさらに強調しているのです。
ここの「シ」も、和音の構成音ではないですね。
しかしここの「シ」については、
「『ソ・シ・レ・ファ』和音の構成音だよーん」と理屈に回収しています。
この主旋律パートには「シ」が四回現れ、うち三回は和音に回収しないで、四回目でやっと回収するという、つま先で平均台の上をバレリーナが踊りながら進んでいくような危うさ&軽やかさがあります。それゆえに聴いていて「おっとっと、おっとっと、おっとっと、おーっ」な楽しさがあるけれど、その代わりにこれ以上はドラマチックに盛り上がっていかないし、盛り上がりようがないのでしょう。
うーん割とあっさり謎が解けてしまいました。
ちなみにこの楽譜はとある方のご好意で提供していただいたものですが、別の本にある同曲の楽譜とは少し音符が違うようですね。上の楽譜で、コードネームで「G」とあるところ、たしか「c」の音符があったような気がするのですが…
つづく