彼は「戦メリ」をどうやって作曲したのか?(その7)
その6からの続きです。
前回は「ファ」に「ラ・レ・ミ」の音が重なる響きについて分析しました。
自分としては精一杯やさしく説明したつもりですが、皆さんちゃんとついてきていますか? ついてこられないひとは以後見捨てますのでよろしくね。
この「ファ」+「ラ・レ・ミ」をもとに、主旋律を作ってみましょう。
次にイントロ冒頭を、同じく「ファ」+「ラ・レ・ミ」をもとに組み立ててみましょう。
面白いですね、主旋律冒頭もイントロ冒頭も、同じ「ファ」+「ラ・レ・ミ」でできているのですよ。
順に聴きかえしてみましょう。以下はイントロの出だし。
そして主旋律の頭部分。
念押しします、どちらも同じ「ファ」+「ラ・レ・ミ」でできているのです。
「ファ」は浮遊感のある音です。「ファ・ラ・ド・ミ」和音すなわちサブドミナント和音といって、長調のメジャー和音なのだけどどこか切なげな響き。浮遊感といってもいい。そういう和音のルート音です「ファ」は。
この映画に出演して、そしてサウンドトラック作りに挑むにあたって、作曲者は「東洋でもなく西洋でもない、現代のような過去のような、いってみれば nowhere land(どこにもない土地)が舞台の物語であるから、浮遊した響きがふさわしいと考えた」と後に語っています。
サブドミ和音のルート音「ファ」と、東洋音階の構成音より「ラ・レ・ミ」を選んで主旋律とイントロをデザインしたのも、うなずける話です。
なによりこの音の組み合わせは、並び替えれば「レ・ミ・ファ・ラ」つまりマイナー三和音+9th という彼のお気に入りの響きそのものです。悲しいんだけどそこに知性がある、そういう響き。
この魔法の響きを、この後、彼は独自のメソッドで進行させていくのです。