バルセロナ五輪、サカモト・マジック
Abstract: Continuing from the previous article, I analyze how Ryuichi Sakamoto composed the piece "El Mar Mediterrani" for the opening ceremony of the 1992 Barcelona Summer Olympics. He has been praised for introducing unexpected harmonies in chord progressions among talented musicians. Even in this piece, there are harmonic progressions that conventional music theory struggles to analyze. However, understanding the modulation reveals that this section of the piece originated from a very simple idea. Particularly noteworthy and effective is the connection of a minor chord with its perfect fourth transposition within the same harmonic context. This represents a unique harmonic progression akin to a minor dominant motion.
[追記 本論考で使われている楽譜は、とある方の採譜に基づくものです。作曲者による楽譜の分析は後日]
前回からの続き
再度聴いてみましょう。
小節毎に調が変わっていくので、色分けしてあります。
前回のぶんで分析してみて「よくこんなの思いつくな~」という気持ちと、「種をあかせば簡単ジャン」な気持ちが入り混じりました。後者について、今回は語ってみます。
試しに転調しないで冒頭からずーっと同じC長調であったらどうなるか、やってみましょう。
実に凡庸な曲に成り下がります。ドレミを付けていくのもめんどくさくなるくらいの平凡さ。
この レ、ミ、ラ の三人組については、前に論じたことがあります。
この三つの音(d - e - a)は、A長調ともC長調ともD長調ともF長調ともG長調とも解釈できてしまよ~というお話。
つまり レ、ミ、ラ のトリオで旋律を作って、和声のほうでどんどん転調を仕掛けていけるのです、その気になれば。
しかし龍一さまはさらにその上を行った。この凡庸な四小節をですね・・・
こんな風にですね、4度上、4度上、平行短調に転調させていくと…
おおっ三小節目まで、ずっと同じ調を保っています!
ここで ♯ になるので「G長調かな」と中途半端に音楽理論をよく知っている方はきっと判断されるでしょうが…
しかし本当はこうなのです。旋律的短音階の上行形を、わざと下行形に使って「この後盛り上がっていくよ~」とウィンクを送っています。(前回分析したとおりです)
Ⅰ△7 → Ⅱⅿ → Ⅱⅿ7 → Ⅲ7 進行を転調技でわけわからん進行にしても、半音下降ラインは巧いこと保たれているので進行が成り立っています。
これも見た目は「よくこんなライン保てたな」でしょうが実際に弾いてみると割と簡単です。
第一小節で和音をトライアドではなくメジャーセヴンス化することで、第二小節に巧く半音下降ラインを作っています。
第三小節と第四小節は平行調で、後者が旋律的短音階の上行形なので半音下降が生じやすくなるわけだから。
第二小節から第三小節にかけての進行はどうでしょう。この二つの和音、同じ調にすると Ⅱⅿ と Ⅱⅿ7。そうです同じ機能の和音です。それが四度上り(青の矢印)転調で連結されています。四度進行の捻り技です。
そして次回、後半四小節ぶんの分析につづくぞっ!