「ファインマン物理学」をわたしが書き下ろすとしたら
大学一年生向けに、数学学習のコツ集を書き下ろしたいと、もうずーっと前から愚痴ってきました。
できれば物理学についても同種のものを綴ってみたいな―って、そんな気持ちもあります。
その関係で、古典物理における「力」と現代物理学における「力」の違いについて、気になってきました。
かのニュートンの『プリンキピア』は、著名な割にきちんと読まれていない書物のひとつとして著名です。ウィキペディアにあるような理解は、ニュートン没後に、ヨーロッパの俊才たちが(文通ネットワークを介して)何十年かかけて解析数学化したものであって、アイザックが生前に開発したものではないです。これ私の持ちネタなので今回も念押ししておきます。
フォース(=ちから)について
「力」についてニュートンは終始曖昧なことしか述べていません。
その後、解析数学化を経て、ニュートンの力学は「ニュートン力学」に洗練されていくなか、俊才たちは思うようになりました。
「『力』ってむしろじゃまでないかい?」
かくして「力」を避ける方向に研究が進んで行きました。
むしろ運動量を主役にすえたほうが、数式に置きかえやすいジャン、と。
現代物理学における「力」
ちなみに現代の物理学で「力」の定義は、もはや日常言語内の「力」とはおよそ別種のものになっています。
「ゲージ粒子(gauge boson)というものがあって、それが素粒子間で交換されることによって『力』が生じる」という風に、記述されます。
目にしたことはありませんか。この宇宙には四つの力があるという話。
弱い力、強い力、電磁気力、重力。
ニュートン力学で扱われる「力」は、これのどれに当たるでしょう?
たとえばてこの原理は、ニュートン力学の範疇ですが、現代物理学的には「重力」のほかに「電磁気力」が関わります。
てこの支点で生じる力(反作用力)は、原子間力や分子間力の組み合わせ、すなわち「電磁気力」ですので、そうなります。
それ力やないよケントさん
いろいろめんどくさいですね。「力」ということば(日本語)は、もともとは日常のことばです。「スーパーマンは力持ちやね」とか。
しかしこの場合の力は、力学でいうと「仕事率」です。
単位時間当たりに行われる仕事の量のことです。(ここでいう「仕事」は日常言語でいう仕事とは別のものです念のため念押ししておきますね)
ふりかえってみよう中学理科
高校物理いや中学科学ですでに「力」の理解がおかしいのです私たちは。
教える側がどんなにしつこく念押ししても、生徒さんは結局、日常言語における「力」に引きずり戻されてしまいます。
しかしそれはアイザックそのひとがそもそも「力」について明確にしないまま、初等幾何的に力学を語りだしたからでした。
その後の天才たちも「力」については避け続けました。
解析力学の発達は「力」をどう迂回するかがテーマだったといっていいぐらいですし。
*
.
うーんこうやって綴っていくにつれてファインマンの気分になってきました。
ファインマン物理学、皆さん読んだことありますか。原著が無料公開中です。岩波からの日本語版は、原文のくだけた感じがコンクリでがちがちにされてしまっているので、あまり好きになれません。
「力」をキーワードに物理学の歩みを、オリエンテーション的に語っていく、そういう章を設けた本を、いつか書き下ろしてみたいな。