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Professor Sakamoto's Forbidden Love or: How He Composed "Merry Christmas Mr. Lawrence" (Part Fifteen)

[Abstract: If we were to draw a comparison to 'Merry Christmas Mr. Lawrence,' it resembles a remarkably extended sentence devoid of periods. Its composition style relies on the continuous flow of text through the use of commas and semicolons. This essay seeks to illuminate this distinctive technique.]


その14からの続きです。

前回、読点(、)と句点(。)の使い分けについてお話しました。

音楽でも同じ使い分けが使い分けできるんだぞ、と。

もっと厳密にいえば、コンマ(,)とピリオド(.)とセミコロン(;)の三つの使い分けが、音楽でも可能であるぞというお話です。


ピリオド(.)にあたるものを、実際に聴いていただきましょう。楽譜にすると、緑で括った部分です。


聴いてみていかがでしょう。この3小節目(緑で括った部分)で、曲が終わってしまう感じがしませんでしたか。


もう一度聴いてみましょう。


この3小節目で、曲が完結してしまうのです。♪ レミレラド~


どうしてこの3小節目で曲が終わってしまうニュアンスになってしまっているのかというと、下段の音を私が少しいじったせいです。(緑で括った和音)


本当はこういう和音です。上から「ドラミ」と並んでいますが並びを変えれば「ラ・ド・ミ」(と下から並べてくださいね)の和音。微妙にニュアンスが違っているのを、どうか聴き取ってください。


聴いてみていかがでしょう? 先ほどの、私がわざといじった和音のものに比べて、曲がこの後も続いていくぞーな感じが出ているのがわかると思います。

この違いはどうして生ずるのでしょう? 比較分析してみます。


以下は、ここで終わりだよーんな和音。「ド・ミ・ソ」の和音です。和声の進みが前後でスムーズになるよう「ミ・ソ・ド」に並び替えてありますが基本形は「ド・ミ・ソ」です。


これはトニック和音といいます。ひとつ前の和音はドミナント和音といって、「ドミナント和音 → トニック和音」と進むのが王道とされています。この王道パターンにそって私が下の様にいじったのです。


着地感がありますね。まさにピリオド(.)です。


しかし実際の曲は、この王道の進行を取らず、違う和音に進みます。


そのためピリオド(.)の感じがしないのです。むしろコンマ(,)っぽい。


この微妙な外しは、以下の「ファ→ ミ」の動きによって支えられています。

半音下降です。クリシェともいいます。こういう半音下降ラインがあると、王道外れの進行であっても聴けるものになるという、面白い法則が働いているのです。


さてここにご注目ください。和音は「ラ・ド・ミ」つまりルート音は「ラ」(緑色)です。一方で旋律でも「ラ」(赤色)が鳴っていますね。つまりこの一瞬、「ラ・ド・ミ」和音の主役「ラ」に対して旋律が完全にシンクロというか屈しているのですが…


続く「ド」(赤色)で、ここの和音の主役「ラ」(青色)から逸れます。


連動が途切れて、そのぶん「ラ」(青色)の引力から少し浮き上がるわけです。これが「コンマ」(,)感を生み出しています。


ここで二周目を見てみましょう。


一周目とのニュアンスの違いについては、すでに述べたとおりなのでここでは省略します。


おさらいしましょう。最初に聴いていただいたのは、曲がここで終わる(ピリオドをうつ)ように私が少し細工したものでした。


しかし実際の「戦メリ」はピリオドを避けて、コンマの和音を使っています。


さらに同旋律の二周目では、「ラ・ド・ミ」和音のルート音と同じ音を、旋律が鳴らして、そこで一区切りしていますね。「ド↘ラ」の動きを経て「ラ」でいったん旋律が途切れるの。


「ド・ミ・ソ」の和音ではなくて「ラ・ド・ミ」和音ではあるけれど、そのルート音である「ラ」に旋律が着地するため、ピリオド(.)とコンマ(,)のハーフみたいなニュアンスになるのです。セミコロン(;)の感じ。


この「メリークリスマス・ミスターローレンス」について前に私は「航空機が滑走路に着地すると思わせてまた空に舞い上がっていくような作り」と評しました。なんちゃって着陸と離床を、何度も何度も繰り返す、そういうデザインの曲であると。

これはつまりピリオド(.)の和音をけして使わないからです。「ド・ミ・ソ」の和音ね。これをけして使わない。代わりに「ラ・ド・ミ」の和音を繰り出したり、さらには「ド・ミ・ソ・」に変形して並びを入れ替えることで、滑走路に降りそうで降りず再び飛び上がっていく、そういう操縦技術に貫かれている曲なのです。


つづく!

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