彼は「戦メリ」をどうやって作曲したのか?(その13)
その12 からの続きです。
「二重の東洋音階」について今回は説明します。
見てのとおりです。白鍵上に「ラ・ド・レ・ミ・ソ」を二つ置けることが、見てわかります。
この二つの東洋音階がカバーしていない音は何だと思いますか。答えは「F」です。
これはすなわち、白鍵のうち「F」を避けるよう旋律を奏でれば(というか作れば)その旋律はどちらの東洋音階準拠でドレミ化しても、成り立ってしまうということです。
「戦メリ」の主旋律は、まさにこの技でできています。
鍵盤の動きを見てみましょう。
「F」の鍵盤が鳴らないの、気が付きましたか?
気付かなかった方は、もう一度よーく見てみてください。
「F」の鍵盤は作動しないのです。「F」を避けるように旋律が作られています。
いいですか念押しします。白鍵のうち「F」を避けるような旋律であれば、以下のどちらのドレミ表記でも成り立ってくれるのです。
青のドレミでも、赤のドレミでも成り立つ… これって「複調」だってことです。「戦メリ」は、楽譜の左端に♭記号が五つ、すなわち変ニ長調(=D♭メジャー)の曲ということになっていますが、旋律はというと、この調であると同時に変イ長調(=A♭メジャー)とも解せるのです。
つまり赤のドレミは、変ニ長調(=D♭メジャー)解釈でのドレミで、青のは変イ長調(=A♭メジャー)解釈でのドレミです。どちらの解釈でも成立します。
そして赤のほうで東洋音階から音が逸脱しても、青のほうでは東洋音階内に留まり、反対に青のほうで東洋音階から逸れても、赤のほうでしっかり東洋音階に回収してみせるのです。(その10 を参照)
「戦メリ」のさらなるすごさは、和声については赤のドレミで通しながら、ある小節(緑で括ったところ)については…
赤解釈でも、青解釈でもいけるよう、わざと音符を少なくしているところです。
難しげですけど、要は右手(旋律)は「F」を避けるように弾いて…
左手(和音)は「F」もオッケーだってことです。
こんな素朴な裏技で「戦メリ」は世界的名曲になったのです。
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