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彼は「戦メリ」をどうやって作曲したのか?(その12)
その11 からの続きです。
その昔「音楽の正体」という番組があって、毎週いろいろな有名曲を取り上げて、どうしてぐっとくるのかを理論的に説明するという趣向でした。
ある回では、東洋音階について取り上げられました。「ラ・ド・レ・ミ・ソ」(並びは「ド・レ・ミ・ソ・ラ」でも「レ・ミ・ソ・ラ・ド」でも他でもいいのですがここでは「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に統一)の音列のことです。
これでできた有名曲として、この映画の主題歌が紹介されて…
その後「戦メリ」が取り上げられ…
どちらも東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に基づく旋律でありながら「戦メリ」が頭一つ抜きんでている理由として、「シ」の音がちらっと混じっているからだと説明していました。
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東洋音階は音が五つしかないため、どうしても旋律が素朴になりがちです。しかし「シ」を混ぜることで六つに音が増えて、情感が増す…そんな風に番組では解説していました。
ごめんそれ間違ってますフジテレビさん。正解は「ド」です。「シ」ではなくて「ド」。この音を混ぜたことで、この旋律は情感豊かなものになったのです。
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そもそもこの音楽番組、ドレミの付け方を間違っています。正しくはこうドレミにしないといけない。
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そして、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に収まらない音を、ここから見つけてみてください。
*
見つかりましたか? 「ファ」です「ファ」。下で緑で括った音符です。
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「戦メリ」は、上段(右手)と下段(左手)が、違うドレミなのです。
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この技は龍一教授の定石です。「ラストエンペラー」「シェルタリングスカイ」「嵐が丘」ほか数々の彼の楽曲が、この上段下段でドレミが違うよメソッドによって作られています。
右手が上段の鍵盤を、左手が下段の鍵盤を奏でながら、彼は曲を作っていく…
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しかし演奏者が一段で弾けるよう、慎重に音符が選ばれています。
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私のいいたいこと、伝わってるでしょうか? 「戦メリ」を弾くと、見た目は一段でも実は二段式の鍵盤で弾いているのと同じになるってことです。
少ない音でできているのに、響きがとても豊かで、かつ繊細なのは、この仕掛けによるものなのです。
断わっておくと、実際に曲作りにあたって、彼がキーボードを二台重ねで使っているわけではありません。一段です、一段で曲を作っています。しかし楽曲を分析すると、彼の耳と頭が二段式で回っているのがわかります。
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このメソッドを可能としたのが「二重の東洋音階」という技法です。次回、実際に鍵盤を鳴らしながら、この技法について説明します。