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「この院生はノーベル賞を授かる」とアインシュタインが評した論文(1924年)その5

その4からの続きです。

1923年論文その2を今回は解読いたします。

前回ぶんで触れるの忘れていたことがあるので大急ぎで触れておきます。

前回お見せした、以下の原子模型、思い出してやってください。

青玉が電子さんです。「でんこ」って呼んじゃいけません「でんし」です。内側の軌道から外側の軌道にいきなりジャンプしたり、外側から内側にジャンプしたりしています。本当はもっとたくさん軌道が外に向かって連なっていくのですがいい動画が見つからなかったので上のもので間に合わせます。

ルイくんはこの現象について「仮想波」という波を仮定すればきれいに数式に置き換えできるとしたのが、1923年論文その1すなわち前回取り上げたブツです。

波といわれて誰しも真っ先に思い浮かべるのは海の波でしょうが、ルイくんのイメージする波は、むしろギターの弦っぽいものです。以下のこういうの。


上にあるように、同じ長さの弦でも波の数はいろいろになるわけです。

この現象を原子模型に当てはめると、各軌道の一周ぶんが、ちょうど弦の端から端にあたると、ルイくんはいうのです。

ちなみに緑の波で跳びだしてるのは「光波」です


いい動画が見つからなかったので先ほどのを流用しましたが、円軌道とは別に「仮想波」というのが青玉(電子さん)の回転運動に伴って生じていて、それがちょうど弦の端から端までをキリのいい数で分割するようにして波うっていると、そういうイメージですルイくんの「仮想波」説は。

以下のような振動弦が…


こんな風に円状に波打っているのが「仮想波」で…


一方この波を生じつつ駆ける電子さんはというと、円軌道を描き続けるわけです。つまりご本人は波打たないの。

緑の波は「光波」です「仮想波」じゃありません念押ししておきます


それではこれより本題に入ります。1923年論文その2の読解、はじまりまじまり~(ドンドンドン)

タイトルは「光量子、回折、干渉」(“Quanta de lumière, diffraction et interférences”)。

なんとたった3ページ、しかも数式がほとんど出てこないの、以下のように冒頭ページでちらちらっと出てくるぐらい。


続く残り2ページには、数式ナッシング

前回の論文で、導出すべき数式はほぼ出してしまったので、今回はそれらの新解釈いきまーすというところです。たとえば「仮想波」と前回呼んでいたものを、この1923年第二論文では「位相波」("l'onde de phase")と呼びなおしていますルイくん。

それから第一論文の後半では「電子」について語っていたのが、この第二論文では「粒子」としています。電子に限らず粒子であれば ―― 光量子であっても —— 彼のいう「位相波」が生じるという主張です。

前回の論文より彼は、光量子→光の原子→電子→粒子→光量子の順に議論を進めています。

光を論ずるにあたって、なんだってこんなまわりくどいことをしているのかというと…

いったん電子つまり質量を有する粒子で議論を進めて、そして光子に話を戻して、この頃すでによく知られていた光についての実験結果を「位相波」理論でスカッと説明してみせれば…

この理論が「光子に質量わずかにあり」「位相波は光速をわずかに超える」というエキセントリックな仮定を置いている弱点を凌駕できると、後世からの解釈ですがそういうことです。


今私は「この頃すでによく知られていた光についての実験結果」と申しました。何だと思います? これです。見たことある方、多いと思います。


「ああどこかで見たことあるなあ」と思ってくださった方にどうか神の幸あれ。「しらん」という方は、下の図をご覧ください。

光源(💡)は一つなのに、二重スリットを通すと、向こう側の壁にしまもようが生ずるミステリー。

通称「ヤングの干渉実験」。えげれその学者トーマス・ヤングによる発見です。

トーマスさんは他にもいろいろ業績があって、フランスのナポレオン閣下がエジプト遠征の際に発見したロゼッタ石の、文字解読にも成功するなど、いろいろ才気さく裂の方だったそうです。現代ではこの干渉実験のひととして科学史に名を残していらっしゃいます。

この名高い実験は1805年頃に行われました。それより百有余年後、フランス人のルイ・ド・ブロイがこの実験における干渉現象を取り上げて、くだんの「位相波」で説明してみせたのです。


彼のいう「光の原子」には、その進行方向に沿うようにして「位相波」が伴っている――この仮定を元に、以下考えていきましょう。

「光の原子」が小さな穴を通り抜けるとします。その穴は「光の原子」なら楽々通れるけれど「位相波」には少々小さすぎる、そういうサイズの穴です。水に置きかえるとイメージしやすくなります。

回折現象

こういうのを「回折」といいます。港町の防波堤を思い浮かべていただければ「ああそういえば波がゲートの前後で変わるねぇ」とピンとくると思います。(思わない方は実験動画がネット上にいくつもあるので検索してみてください)

この絵の場合は、水全体が波打っているわけですが、「光の原子」の場合は、穴に向かってパチンコ玉が真っすぐ突っ込んでいく感じです。このパチンコ玉は、その進行方向の前後に波を生じる(というか伴う)「光の原子」というわけです。

それが以下のような二重スリットをくぐり抜けると「位相波」が「回折」を起こして、壁に光と影の縞模様を形作ると、そういう説明です。


①光子に質量がわずかにある、②位相波は光速をわずかに超える この二点がルイの「位相波」説の弱点であるにもかかわらず、百有余年にわたって謎であったヤング干渉現象について、この「位相波」説は合理的な説明を与えています。

①②が弱点であることはルイくんも百も承知だったと思います。私が彼でも気にします。「電磁気学が将来もっと進展すれば『群速度』の現象としてうまく説明できるようになるだろう」とこの弱点についてはスマートに切り抜けています。(ちなみに翌1924年の英語論文ではもう少しわかりやすく『群速度』とのアナロジーを語っていますね)

この後の彼の研究は、主題が光子からむしろ電子に移っていきます。「光子と同じく電子にも位相波があるとぼくはもともと考えている。そうだとするならば、どういうことが説明できるんだろうメーテル?」と。



つづくよ

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