「君が代」をドイツ人音楽家はどうアレンジしたか
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卒業式の練習と称して毎日卒業式をさせられた思い出、皆さんあると思います。そういえば運動会や体育祭での応援合戦も、練習と称して毎日やらされました。今思うと生徒を手なずけるための巧妙かつAHOな装置だったのだと思います。
「君が代」も、そんな記憶とともにあるのではないでしょうかほとんどの方にとって。
今回は私には珍しくコードネームを付けてみます。ガチガチのドイツ和声なので、コードネームで分析したほうがいいかなと思うから。
順に見ていきます。冒頭二小節は、和声ナッシングです。
♪ き~み~が~あ~よ~を~わぁ~ ♪
ここは ♪ ちよに~いい ♪ の長/短三度下に音を付けて、長三和音にしています。たとえば「♪に~」(ラ)には「ファ」を付けて、ファ・ラ・ドつまりいF和音。
この「♪ や~ち~よ~に」小節が面白い。「D7」とあるのはダブルドミナント和音かなーとどなたも思うでしょうが、もしこの小節がC長調ではなくG長調だと解釈するならば、この「D7」はドミナントセヴンス和音。
この「B7」も、この小節がG長調(=E短調)であると見れば謎が解けます。E短調におけるドミナントセヴンス和音であると。
この「D7→B7」の進行も、長調のドミナントセヴンス和音から、平行短調のドミナントセヴンス和音への進行とみれば説明できます。これ少し「泣き」が入るのでぐっときます。
「B7→Em」はドミナントモーション。これでE短調からG長調に調性が戻され、C長調とも取れる。「F♯」の音はここにはないからG長調ともC長調とも取れるのです。
「♪さ~ざ~れ~」小節へ。ここも旋律に対して長/短三度下に音を付けて、長三和音化する技です。
「♪ い~し~の~」小節。ここでは「D7」ではなく「Dm」が鳴る。すべてC長調つまり白鍵の音でできています。「レ」の音に「D7」を付けて盛り上げる技を二回も使うのは野暮なのでしないよーって感じでしょうか。
「♪ い~わ~お~と」小節。♪ミ~ソ~ラ~ソ
ラ ↘ ソ ↘ ファ ↘ ミ の下降ラインが見えます。旋律の長/短三度下に音を付ける技に、この「ラ」下降ラインが重なっています。おかげで情感度アップ。
「♪な~りて~」小節。ここも旋律の長/短三度下に音を付けて、長三和音化する技でできています。事実、「て~」は「レ」音ですがこの小節では Dm も D7 も使わず G できてますね。
「♪ こ~け~の~」小節。
「の~」は「レ」の音で、短三度下に音を付けると「シ」なので長三和音化するとGかBになるのですが「君が代」は「レ」でGやBを付けるのを回避したいようです。Bを使うと「G長調の和音だよーん」とアピールするのと同じですし、Gだと「C長調の和音だよーん」とアピールするのと同じです。
どっちとも取れるようにしたいのが、編曲者エッケルトの希望とみます。それで Dm ではぐらかすの。
「♪ む~う~す~う」小節。「♪ む~」(ド)には短三度下の「ラ」を付けて、「♪ う~」(レ)は Dm ではぐらかして「♪ す~」(ラ)には長三度下の「ファ」を付けて…
ユニゾンで幕。「♪す~う~ま~ああで~」
エッケルトはどうやらこの旋律(雅楽の「壱越調」準拠)を、C長調とG長調の転調と解釈したようです。壱越調は上行と下降で音階が変わります。それを、C長調とG長調の変化とこじつけたものと思われます。
ここ(赤マークの小節)はもろにG長調(➱E短調)解釈で和声を付けていますね。
G7が一度も使われないところがミソです。使うと「この曲はC長調だぞお前ら」と念押ししてしまうのと同じだから、慎重に避けられています。Gは使っていますがC長調のドミナントではなくG長調のトニック和音っぽいです。
全体としては、旋律の長/短三度下に伴奏音が付くようになっていて、しかし「レ」の音については和音を工夫しているなって作りです。
…という分析でいかがでしょうフランツ・エッケルトさま。「まあまあかな」
つづくかもしれぬ⇩