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Professor Sakamoto's Forbidden Love or: How He Composed "Merry Christmas Mr. Lawrence" (Part Five)
[Abstract: Ryuichi Sakamoto's iconic composition, "Merry Christmas Mr. Lawrence," is built upon the chord "Fa-La-Re-Mi." This chord is a recurring motif throughout the soundtrack of the film bearing the same title.]
その4からの続きです。
前回まで旋律について分析しました。後の回で続きをするとして、今回は和音について語ります。
この曲は同題の映画のメインテーマとして作曲されたものです。1982年11月よりスタジオに籠って、広報によると280時間籠って映画のサウンドトラックを作り上げたそうなので、おそらく翌年頭までかかっていますね。ジョン・ウィリアムズのような、楽譜をきちんと書き上げて(というかオーケストレイターに仕上げさせて)オーケストラを指揮して録音するスタイルではなく、断片的なスケッチをもとに、スタジオでシンセをいじって音を作り上げていく、そういうやり方だったことが、当時のスケッチからうかがえます。
ところでもっとずっと後の、2006年2月のあるインタビューで、彼は「戦メリ」のあの旋律 ♪ レミレラレ~ の小節部分を、本来の D♭長調ではなくC長調つまり白鍵で弾きながら、ぽつんとこう述べたのでした。
この響きが「戦メリ」全体の響きですね。
彼が弾いたのは、この旋律フレーズの構成音「ラ・レ・ミ」と、和音のルート音「ファ」の四つの音でした。右手で「ラ・レ・ミ」を、左手が「ファ」を鳴らしながら。
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白の鍵盤に移調して弾くことで、この小節部分の構造が視覚化され、そしてこの発言をしたのです。「この響きが『戦メリ』全体の響きですね」と。
どういうことかわかりますか?この「ファ」+「ラ・レ・ミ」の響きは、同映画のサウンドトラックの他の曲にも繰り返し現れるのです。前に分析した「The Seed and Sower」や、劇中の回想シーンで描かれる子どもの乱闘の際の音楽など、「ファ」+「ラ・レ・ミ」の響きが平行和音で乱打されます。
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ちなみにこの「ファ」+「ラ・レ・ミ」の響きは…
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イントロ冒頭でも聴き取れます。
♪ ミレミラミレミレミラミレ
(下段のボトム音は「ファ」)
そしてこの曲の締めくくりでも、この響きが聞き取れます。
左手が「ファ」を1オクターヴ違いでトレモロ弾きしていますね。(太い三本線が書き込まれているところ) 右手を見ると「ラ・レ・ミ」を骨格に置いて「♪ラ~シ~レレ♭ド~ミ」を繰り返しています。ちなみに「レ↘レ♭↘ド」の半音下降線は、喩えるならば曲の音量がだんだん小さくなって消えていく様を疑似的に表現する裏技です。後の回で説明しますね。
本題に戻ります。この「ファ」+「ラ・レ・ミ」の響きを土台にして、彼はどうやって名曲「メリークリスマスミスターローレンス」を組み立てていったのでしょう。
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