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モーツァルトの遺作は、私が解剖するしかないのか…(その16)
今回はこの小節からいく。
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A短調解釈で階名を付けていくと、こんな風になるわけですが…
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「G短調に変わったんやないんかい?前回の分析ぶんでそういうとったやないか」と問いただしたくなる皆様のその気持ち、よっくわかります。わかりますよ。わかってます。それで当っていますわかってるって。
しかしここでは譜面にある調号(無調号というべきか)どおりA短調とみなしで階名を付けてあります。
なぜか?
ここ、減七和音だからですよ。「ソ・シ♭・レ♭・ミ」。A短調解釈。
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一方で、前回の分析にそってG短調で考えるならば「ラ・ド・ミ♭・ソ♭」。
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A短調、G短調のどちらの解釈をとっても、減七和音ですので七音音階からはみ出してしまいます。
結論を先に言えばG短調です。事実、ひとつ前の小節が Gm 和音でした。それが(上にあるように)Gdim 和音に進んで、減七和音の特性を使ってこれが D♭dim と読み替えられて…
続く小節はどうかな…おおやはり D♭7 和音に進むわ。F♯短調 のドミナントセヴンス和音。
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D♭dim → D♭7 と進むわけですよ。もっと前の小節でも使われていますねこれ。半音下にさりげなく転調していくスーパー裏ワザ!
ここではG短調から F♯短調 への半音下転調。モーツァルト進行と命名してもいいぐらいの巧さです。
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続くここも F♯短調 で、トニック和音。F♯ⅿ。
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ここがわからない。D♭、A、C、F♯ の四音が同時に鳴る和音って…
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原楽譜と見比べてみたら、この「c」の音はないようです。つまりこの編曲版にどういうわけか混ざってしまった音です。打ち込みミスではないかと想像します。
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そうだとするとここの和音は(ひとつ前のものと同じ)F♯ⅿ 。 F♯短調 のトニック和音。
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燃え盛った業火も、巧みな半音下転調の連続とともに静まっていく、治まっていく、そういう風に曲が進んで行きます。プラットフォームに、新幹線電車が緩やかに滑り込んでいくように。