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バルセロナ五輪で「第九」を歌おう

Abstract: The Paris Summer Olympics will commence on the 26th of this month. At the opening ceremony of the 1992 Barcelona Games, he composed and conducted the music for the mass games. Upon analysis, it is evident that he was strongly influenced by Beethoven's "Ode to Joy." The technique of connecting melodies between measures, akin to the bogies of a train, is a common feature. However, while "Ode to Joy" maintains a consistent tonality, the climax sequence from his "El Mar Mediterrani" changes key with each measure. Amidst the mingling Catalan people, it eventually unleashes the great strength of Hercules, as if cutting through the darkness with light. When the harmony that hints at catastrophe sounds, the Catalan hymn "El Virolai" is played. The harmony that seemed catastrophic is, in fact, a skillful transition to the D major key of this hymn.

[追記 本論考で使われている楽譜は、YouTube動画にあった採譜に基づくものです。作曲者による楽譜の分析は後日]

おとついより、この曲を分析中なのですが…


譜面はこちら。思っていたより謎解きが難しい。


寝床で脳内再生しているうちに、気づいたことがあります。

これベートーベンの第九の、あの旋律をものすごく意識している!


この旋律。♪ ミミファソ/ソファミレ/ドドレミ/ミ~レレ とその続き部分。


小節バーを越えるとき、同じ音が続くのです。

電車になぞらえると、こんな風。


こういうの連接台車といいます。検索でたった今知りました。揺れが少ない、急カーヴでも高速走行できる等、利点がいろいろ。

弱点としては車両の切り離しが利かないことですが、「第九」についてはそれが強みとなります。旋律が滑らかに続いていくので、とても歌いやすいし覚えやすい。

友よ、これが歓びの歌だ!
全世界がここに集まる
すべての人々が兄弟となり
幸せの抱擁を


一方、サカモトによる五輪曲はというと…



をを、連接台車してますわ。(追記 同音異名的な音符が一か所あるので本論考末尾に訂正を入れました)


「旋律が滑らかではないね」といちゃもんをつけたくなるその気持ち、よっく分かります。ところがここに、とんでもない裏技が使われているのです。

前半は「ミ」から始まって、後半冒頭の「ファ」に半音上がりでスムーズに連結しています。

おかげ途中から、アクセルが踏み込まれる感じ、します。


それからもう一つ、面白い技が使われています。


前半は四度上昇が連続して、後半は五度が上がって下がって、次の五度上がりにバトンが渡っていくのです。

緑色で、車両連結を視覚化すると…


さらに紫色で、長三度上昇の連結を強調すると…

四度上昇(青色)の連続は清々しいのに対し、五度上昇(赤色)の連続は大股すぎて少々辛いのです。それで一度もとの音に下降して、三度上り(紫色)して次の五度上昇をさせています。


車両連結といえば、ここに二度上昇のものがあります。


ここの車両連結は短二度。オクターヴ違いの「ミ」が「ファ」に上昇。


考えてみれば「第九」も、車両連結でこういうのやってますね。


ただベートーヴェン楽聖さまは、転調しまくりはしていなくて、ずーっと同じD長調でした。

プロフェッサー龍一ちゃんのは、転調しかけまくりです。聴いてみましょう。

(どういうメカニズムで転調しているのかは、このブログではなく他の場所で検証済なので、ここでは説明を省きます)


映画「ラストエンペラー」のエンディングテーマも、転調しまくりでした。

皇帝・溥儀が、立憲君主として歩んでいこうとするたびに、歴史の波に翻弄されてグダグダになっていく、そういう様が音楽化されていました。

しかしバルセロナ五輪大会曲における転調は、めくるめく大波が次第にシンクロしていって、人民の団結がヘラクレスの怪力となって魔物を打ち倒していく様を描いているようです。

天に向かって上っていく。まさにヘラクレスの塔。


そこで一度破局が来るのですよ。


赤で記した二つの音程、どちらも増四度です。調性はG長調を示しているものの、増四度音程(赤色)にくわえ短三度音程(緑色)も混じっているので、よけい不吉な響きです。


さらには短二度音程(茶色)まであったりします。


どうしてクライマックスに、こんな不気味な和音を彼は選んだのか?

それはこの賛美歌にバトンを渡すためです。


これ、D長調ですね。先ほどの不気味和音はG長調でした。GからDへの転調は、時計の針でいえば11時方向から10時に移るようなものなので、スムーズに転調できます。

人民の団結(文明というべきかな)が、ヘラクレスの怪力となって、闇を打ち払い、すべてが瓦解する・・・するとやがて、カタルーニャの魂ともいえる、この賛美歌の旋律が響きわたる。


泣けるわ~



つづくよ ⇩


追記 赤でマークした♩は正しくはc♯ です。いわゆる同音異名。論旨に影響はないので現行のままにしておきます。

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