BBCよ、NHKよ、バイデンはそんなこと言っていないぞ!
アメリカ大統領が交代してもうじき一か月。バイデンの就任演説がどんな風だったのか思い出したくて、たまたま日本語訳を目にしたのですが…
なんやねんこれは!!!
びっくりしました。原語で耳を傾けてみましょう。
We've learned again that democracy is precious, democracy is fragile and, at this hour my friends, democracy has prevailed.
私が訳してみます。
「この戦いで、私たちは民主主義の危機と、そして民主主義の尊さを、改めて学ぶこととなりました。そして今この時、民主主義が我らと共にあります」
比較サンプルとして、もうひとつ、朝日新聞の訳を紹介します。
民主主義は大切であることを改めて学びました。民主主義は壊れやすいものです。皆様、今この時、民主主義は勝利したのです。
うーむ…私のものを今一度お見せしますね。
「この戦いで、私たちは民主主義の危機と、そして民主主義の尊さを、改めて学ぶこととなりました。そして今この時、民主主義が、我らと共にあります」
バイデンは「We」(私たち)と述べています。国民の一致団結を訴えるには「私たち(We)」が一番シンプルかつ効果的だから。
トランプとの大激戦大接戦で国民が真っ二つに分かれてしまいました。そのことをバイデンは強く意識していて、その気持ちが「We」(私たち)には込められています。
トランプの煽りによって、議事堂に人民が乱入し、暴動の末に四人もの死者が出てしまった。まさに民主主義の危機。しかし選挙戦の末、ようやく現職大統領は息の根を止められ、そして権力はこのトランプより彼バイデンの手に移った…
このことを彼は簡潔なことばで言い現わしています。民主主義は「precious」(かけがえがない)、民主主義は「fragile」(もろい)だと。
そしてこの瞬間、民主主義は「has prevailed」(息を吹き返した)、と。
ほかのメディアでの日本語訳も拝見しましたが、どれもこのロジックをうまく伝えきれていないように感じます。
*
ほかにも腑に落ちない日本語訳が、どのメディアのものも目に付いたのですが、とりわけ私が首をかしげてしまったのは、バイデンのこの発言(の日本語訳)についてでした。
" a cry for racial justice some 400 years in the making moves us. "
どの邦訳も、わけもわからず直訳しているのです。
およそ400年続いている人種的正義を望む叫びが、私たちを動かします(✖)
これはですね、今から400年と少し前、最初の黒人奴隷が、アメリカ大陸にアフリカから船で持ち運ばれたことを指しているのですが、日本のメディアは調べなかったのでしょうか。
「およそ400年前、最初の黒人奴隷がここアメリカに連れてこられて以来、ひとは皆平等であると訴える正義の戦いが、この国で今も続いています」(くみ訳)
なぜ唐突にそんな大昔のできごとが、就任演説のなかで触れられたのか?
それは続くこの文を聞けば、わかります。
" The dream of justice for all will be deferred no longer. "
NHKはこの部分を、
すべての人のための正義を実現する夢は、もう先延ばしにはできません。(?)
などと訳していますが、✖です。正解は
「この理想を今こそ果たさねばなりません」(くみ訳)
です。この部分は、コロナ禍で黒人たちの感染や死亡率が白人たちより高いことに、黒人たちが逆上して暴動を起こした、昨年のあの事件について語っているのがわかりませんかNHK?
バイデンは要するに「黒人どものことを忘れたわけではないよ、ちゃんと国が諸君の面倒をみるよ、ワクチン注射も公平にやってあげるから、暴動はもう勘弁してね」となだめているのです。
この就任演説は先月(2021年1月)の25日に行われました。もう数日で一か月を経るわけですが、ここ日本ではどこまできちんと理解されているのでしょう?
いろいろな大手メディアによる日本語訳に目を通してみたものの、合格点に達しているものは、ひとつもありませんでした。
*
そうそう、アメリカ大統領のスピーチ、とりわけ就任演説は、歴代のどの方も、推敲に推敲を重ねています。どうしてかというと、耳で聴いてすべてがわかるものでないと、国民(というか大衆)には伝わらないから。
日本語訳はいろいろだけど、試しに声に出して読み上げてみてください。耳だけでさっと理解できるものになっているでしょうか?
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