英語で書かれたアート情報を探し、読む方法について (2023/02/03追記)
日本語話者にとって、アートに関する情報収集は大変だ。気になる海外作家の情報を探しても、日本語の記事はなかなか見つからない。日本人作家ですら、英語の批評記事の方が充実していることさえある。
それもそのはず、コンテンポラリー・アート業界の公用語は英語である。本場のアメリカやヨーロッパに限らず、他国の情報の殆どは英語でシェアされている。
ネットは全世界に繋がっている。それでも日本語の情報だけに閉じこもっていては、アートに関して得られる最新情報、専門知識は極めて少ない。あるいは、最新に見えるけれど実は5年ほど遅れた情報を仕入れていたり、特定の誰かのフィルターを通して偏った情報だけを摂取しているかもしれない。
このような状況を考えると、欲しい情報をいつか誰かが日本語訳してくれるのをひたすら待つよりも、自力で英文を読む努力をした方がはるかに簡単、かつ有意義にアートを勉強できる。
それに英語記事を読むのに、全てをスラスラと読める英語力は必要ない。そもそも熟練度を上げてから英語を使うという発想が矛盾している──それはまるで、最初の村でLv100にしてから旅に出ようとしているのに近い。明らかに非効率で、途中で飽きる可能性が高い勉強法だ。
とにかく未熟でも良いので、英語に触れてみることが大切だ。恥をかき、間違いながら経験値を上げるのが最も効率的に学習できる。それに今なら英語ができなくても、翻訳ツールと英和辞書サイトの使いこなし方さえ覚えればある程度まで英文は読めてしまうはずだ。
情報の探し方
専門的な内容の記事をネット上で見つけたいならば、基本的にはどこかのアート系情報サイトを掘るよりも、アーティスト名や気になる話題に article(記事)を足して検索するのが最も効果的だ。
例:『Andy Warhol article』『pop art article』など
また、Google Chromeにはページをまるごと日本語へ翻訳する機能がある。確かにたどたどしい日本語訳ではあるが、大体の意味は掴めるはずだ。
更に、現在のDeepLの翻訳精度はかなり高い。アート系の記事が砕けた文体で書かれていることは少ないので、英語→日本語の翻訳なら概ね正しい翻訳が表示されると考えていいだろう。
珍しい単語、表現の微妙なニュアンス、イディオムに関してはWeblioで確認、それでも分からないスラングに関してはUrban Dictionary などを参考にしてみると良いだろう。
おすすめのサイト
基本的には上記のように探す場所を特定せず、欲しい情報を検索して色んなサイトへ探しに行った方が良いと思われる。しかし、以下のサイトを巡回したり、公式SNSをフォローして新着記事をチェックしていれば、予期せぬ話題や新たな興味の対象に出会うきっかけが生まれるかもしれない。
Artsy
アートのポータルサイト。話題の展示、世界中のギャラリーが売りに出している作品などをチェック可能。いろんなアーティストの作品を見るだけでも楽しい。
Artsy-Editionalがテキストのページであり、美術史やムーブメントに関する基礎的な話題からビジネスやオークションに関するニュース、新しい潮流、話題のアーティストについてまで雑多な話題に触れている。
Hyperallergic
興味深い記事が多く、名前通り敏感なセンスという感じ。ざっと眼を通して面白い記事を見つけやすいのはここかも
NY Times Arts - Art and Design
有名新聞社のアート部門。巨匠の回顧展が始まったり亡くなったタイミングで、今までのキャリアを包括する記事が掲載されたりする。無料で見れる記事数に制限があるが、有名作家に関する記事ならここが一番充実している
New York Magazine - Vulture
色んなジャンルの批評記事が掲載されるが、ファインアートにおいては美術批評家:ジェリー・サルツのテキストがよく掲載されている印象。ディープだけどわかりやすい記事が多い
ARTnews
時事ネタ、ビジネスなど業界内の話題に強い印象。トップコレクター200のリストを作成している
Artnet News
ファインアート関連の専門性の高い記事を細かくジャンル分けして掲載している
ArtReview
アート界の影響力を総合的にランク付けしたpower100を毎年公開している
サイト巡回用ツール
とはいえ、いきなり英語のサイトに飛んで、自分の関心のある話題を探すのは大変だろう。なのでそのためのツールをGoogleスプレッドシートで作成した。
英語のアート系サイト巡回用ツール(Google スプレッドシート)
左上のリストからチェックしたいサイトを選べば、自動的に最新記事が読み込まれ、そのざっくりとした日本語訳が並置される。ここで気になるものがあればリンク先に飛び、DeepL翻訳 や Google Chromeのページ全体翻訳機能を駆使して読んでみて欲しい。
紙の記事の場合:OCRの活用
作家のカタログにはより詳しいテキストが掲載されている。現在はスマホやタブレットで使用可能なOCRアプリがいくつもあるので、それを使って英文を文字データ化し微修正、DeepL翻訳を使って日本語で読む、という手もある。英語は日本語よりもOCRの変換精度が高いので、難なくデータ化できてしまうだろう。
個人的にはAdobe scanを使用することが多かったが、本をOCR化する場合は厚みの影響でページが歪み、上手く読み取れない場合がある。歪み補正機能の付いた本専用スキャナーも存在するがかなり高額なので、OCR化したいページが十数ページ程度ならば、iPhoneのカメラに搭載されているテキスト自動検出機能を利用するのが、最も簡単かつ最も精度が高いと感じている。
記事の記録
そもそも英文記事をどこに保存すべきか?おすすめはEvernoteである。Google Chromeの拡張機能Web Clipperを使えば、気になる記事を瞬時に保存できる(いわゆる魚拓だ。)このツールは、広告や余計な要素を削除してメインの記事だけを保存する簡易版の記事という機能があり、情報を整理する際にとても便利だ。海外の情報サイトは毎月の無料記事閲覧数に制限があることが多いので、気になる記事を見つけたらとりあえずクリップしておくことをおすすめする。
また、英文の読み易さはフォントも大きく影響する。専門書はローマン体のフォントで書かれていることが多いが、データ化してサンセリフに変更することで格段に内容が頭に入ってきやすくなる場合がある。日本語の明朝体・ゴシックのフォントに関しても同様のことは言えるので、一度試してみると良いだろう。
そもそもテキストを読むのは時間がかかり、両手と視覚が塞がれてしまう。内容にじっくり没入したい場合はそれでも良いが、音声読み上げ機能を使って耳から“読む”のもひとつの方法だ。他の作業をしながら勉強ができるうえ、読み上げ速度の変更もできる。
今まで意訳してきた記事
私も以上の方法論を使って英文を読み、理解を深めるために意訳し、いつでも振り返れるようにと保存してきた。このリンクから今までの記事を確認できるので、興味があれば読んでみて欲しい。また、誤解・誤訳などのツッコミどころがあれば気兼ねなく指摘いただけるとありがたい。
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