冬に贈る、春の青空ワンピース【企画参加】
商店街の片隅にある、アンティーク調のお店。
よく、喫茶店だと間違えて入ってくる人もいるが、ここは私の作った服を売っている、小さなお店だ。
今風に言うならば、私はデザイナーという職業になるのだろうか。
自分で服をデザインし、服を縫っている。
普通の人と違うところと言えば、空を切り取って服を作り上げることだろうか。
魔法のように聞こえるかもしれないが、私はこの眼で見たものをそっくりそのまま描くことができる能力を持っている。
『空を切り取った服』
巷ではこっそりと噂されるような、そんな服を私は作っていた。
季節はクリスマス。
普段は少ない客足も、この時期はぽつりぽつりと増える。
そんなお客の要望をひとつひとつゆっくり聞き、丁寧に服を仕上げていたらいつの間にかすっかり日も暮れ、そろそろ私もお腹が空いてきた。
よし、今日はもう店じまいだ。
店先の札をCLOSEDに変えようとミシンから顔を上げたその時、ドアのベルがカラン、と音を鳴らし、ドアが開くとともにひんやりとした空気が店内に流れ込んできた。
「あの…もう本日は閉店でしょうか…」
おずおずと、申し訳無さそうにドアを開ける一人の青年。
心なしか、息が弾んでいるように感じる。
もしかして、仕事帰りなのだろうか。
細身の身体にしっかりと合ったスーツは、少しだけよれて疲れているように見えた。
追い返すわけにはいけない、と本能が語りかけてくる。
無論、普段から閉店時間を設けているわけではないから、追い返しなどしないのだけれど。
「いえ、大丈夫ですよ。今日はどうしました?」
青年にほほえみかけながら、そう返す。
青年は、赤くなった鼻の頭をかきながら、照れくさそうに話を切り出す。
「…付き合っている彼女に、ワンピースをプレゼントしたくて…」
聞いていたら顔が綻んできてしまった。どうやら今回はとっても可愛らしいお客様が来てくれたようだ。
「店先ではあれですから、どうぞ中へ。寒かったでしょう?」
青年を、店内の奥にある薪ストーブの前へ導く。
少し緊張しているのか、ぎこちない足取りで薪ストーブの前にあるソファに青年は腰掛けた。
青年の正面に座り、詳しくオーダーを聞く。
「彼女は、どのような空がお好みでしょうか?」
そう尋ねると青年はうつむき、何やら言いにくそうにしている。
…複雑な事情がありそうだ。
にっこりとしたまま、彼の返答を待つ。
炎が薪を燃やすパチパチという音と薪ストーブの温もりが、ゆっくりと彼の心を溶かしていく。
「…彼女、病気で外に出られないんです。だから、外に出た気分になれるように、青空のワンピースが欲しくて。初めてのクリスマスプレゼントなんです」
どこか寂しそうに、青年はそう答えた。
なんとかしなければ。
2人には、笑顔になってもらいたい。
青年の眼をしっかりと見て告げる。
「ぜひ、作りましょう。クリスマスまでには間に合わせます」
すると青年は、どこかホッとしたような顔で、「お願いします!」と立ち上がってお礼を言った。
これは、大仕事の予感だ。
---
問題は、どの青空を切り取ろうかだった。
冬の空は、どこか儚い。
消えてしまいそうで、それでは2人のイメージに合わないと感じた。
いくつかの私の記憶の中で、彼女のイメージに合うような青空…。
…春の暖かくて、柔らかな青空にしよう。
そうと決まると、作業の手は驚くほど素早く動いた。
ラッピングまで完成し、後は指定された宛先に届けるだけ。
彼の意向で、サプライズとして彼女の家の届くように手配した。
彼女の心が、暖かくなりますように。
2人がいつまでも、笑顔でいられますように。
そんな思いを込めて、包みのリボンを結んだ。
---
後日、青年が再び店に訪れ、彼女との写真を私に見せてくれた。
写真には青空を身にまとい、満開の桜のような笑顔の彼女が写っていた。
もちろん、隣にいる彼も幸せそうに笑っていた。
また、誰かを笑顔に出来たのであれば。
そう思うと、私も自然と笑顔になれるのだ。
今日もまた、誰かがお店のドアを開く。
❄ ❄ ❄
今回は、ミムコさんの妄想レビューに参加させていただきました…!
レビュー文を見た瞬間、これは書かねば…!!!とビビビッと降りてきました😂
洗濯物そっちのけで書きました😂干してきまーす😂
ミムコさん、この度は素敵な企画をありがとうございました🥰
※アイキャッチ画像は素敵なお写真をお借りしています。ありがとうございます。